治るか治らないかは「気の持ちよう」?! 「イグノーベル賞」を受賞した日本人学者の実に凄い研究(4)

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 2014年ノーベル物理学賞の授賞理由の一つは「人類への貢献」だった。実際、日本人3人(うち1人はアメリカ国籍)が発明した青色発光ダイオードは、すでに照明、ディスプレイなどに広く役立てられている。それに対し、くだらないという意味の「Ignoble」とノーベル賞をかけた「裏ノーベル賞」として知られるイグノーベル賞。日本人受賞者も多数出ている。彼らの研究は日常生活への貢献は足りないものの、本家ノーベル賞受賞者と同じく、他人の目を気にせず独自の研究に邁進している。笑わせる研究の頂点を極めた人たちは、いったい何を考え、研究に取り組んでいるのか。科学ジャーナリストの緑慎也氏が日本人受賞者の素顔に迫った。

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 2013年に医学賞を受賞した帝京大学准教授の新見正則(55)。授賞対象になったのは「心臓移植をしたマウスに、オペラの『椿姫』を聴かせたところ、モーツァルトなどの音楽を聴かせたマウスよりも、拒絶反応が抑えられ拒絶までの期間が延びたという研究」。

 移植免疫学を専門とする新見は、心臓を移植したマウスに様々な処置を施すことで、免疫機能の働きを調べている。

 音楽の他にも、マウスの免疫機能に影響を及ぼす要因があるらしい。

 たとえば、ある漢方の匂いを心臓移植マウスに嗅がせると拒絶反応が抑えられた。不思議なことに、それを飲ませても効果はなかったが、匂いを嗅がせると効果があったという。また、一日1時間、運動させると、これも拒絶反応を抑える効果が確認された。いい匂いを嗅ぐと癒されるとか、運動すると体の調子が良くなると言われるが、あながち根拠がないとは言えないのだ。

 心臓移植マウスで免疫機能を調べるとき、広く行われているのは薬品を使った実験だ。それに対して、新見が知りたかったのは、従来、科学の組上に載りにくかった「周囲の環境」や「ちょっとした運動」が身体に及ぼす影響だった。

「僕も含めて世の中の多くの人は、薬の効果にばかり注目してきました。たしかにすごい薬はいろいろあるけれど、環境も人の免疫機能に影響を及ぼしているのではないか。実際、調べてみると、健康に直接的には大した影響はないだろうと思われていた音楽、匂い、運動などがマウスに対して薬に近い効果を及ぼしていました」

■何を言ってもOKに

 新見は科学者であると同時に、病院で外来を受け持つ臨床医でもある。臨床現場で経験を重ねる中で、気付いたことがあった。それは、同じ治療をしても、治る人もいれば治らない人もいること、症状が改善する人も悪化する人もいることだった。いったい何が違うのか。新見の答えは「気の持ちよう」。拍子抜けするような答えではあるが、やはりそうだったかと納得もしてしまう。

「気の持ちようや環境によって免疫系が変わるというのは本当です。注意していただきたいのは、マウスはヒントを与えてくれますが、人間の代弁をしてくれるわけではないということです。マウスで得られた結果がそのまま人に当てはまるわけではない。ただ僕は、マウスでさえ音楽や匂いによって免疫系が変化するのだから、マウスよりもっと複雑な人間は当然、影響を受けるだろうと考えています。だから人それぞれ、自分の好きな音楽を聴いて、好きな匂いを嗅いで、適度に運動すればいい。イグノーベル賞をきっかけに、気の持ちようによってマウスの免疫系でさえ変えられるんだ、というメッセージを世界中に発信できたのは嬉しいですね」

 新見は、テレビにもよく出演して積極的に発言したり、一般向けの本も多数出したりしている。昨年10月には『死ぬならボケずにガンがいい』(新潮社)を上梓。中を見ると、薬に頼るな、メタボ健診が患者を増やす、高血圧基準に惑わされるな、などなど医療業界に対する過激な言葉が並ぶ。

「別に医療業界を批判しているわけではありません。僕もその一員ですから。ただし、現実を知っておいてほしいという思いでしゃべったり書いたりしています。イグノーベル賞を受賞したおかげで、変わった奴がなんか言っているだけと思われるようになった。何を言ってもOKになりました」

 イグノーベル賞には、「歯に衣着せぬ発言機能」とでも名付ければよいのか、そういうものを高める効果があるのかもしれない。

 科学ジャーナリスト 緑慎也

「特別読物 笑える『イグノーベル賞』を受賞した日本人学者の実に凄い研究」より

週刊新潮 2015年1月15日迎春増大号掲載