中井貴一が語る原作物の難しさとは――鼎談 広末涼子×浅田次郎×中井貴一(4)
9月20日公開された映画『柘榴坂の仇討(ざくろざかのあだうち)』。原作者・浅田次郎さん、主演の中井貴一さん、その妻を演じた広末涼子さん。鼎談は原作物の難しさや浅田次郎さんの意外な演技力に話は及ぶ。
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中井:今回、浅田さんは茶店の親爺役で出演されていますよね。さりげない演技で、絶対、演劇部出身だと思いました(笑)。
浅田:原作者としての映画出演はたいていお断りするんですが、今回は多分、締切の最中か何かで思考停止していたんだろうね。出演を断るのは、スタッフも出演者も集中し、エキストラさえピリピリに張り詰めているところに部外者の僕が現れたら、ご迷惑だと思うから。ものを創る行為がそんなに甘いものではないということは、僕自身よく知っています。
中井:僕たち、意外に迷惑だと思ってないですよ。原作も含めて運命共同体だと思っていますから。原作物の難しさは確かにあって、浅田次郎という人の掌の上からは出られない。でも、映画化で掌を大きくすることも小さくすることもできる。「がっかりした。原作のほうが良かった」ということもあるし、その逆もある。いずれにせよ映画は原作の延長線上にあるんです。だから、映画は映画、小説は小説、別物ですからと言われると、ちょっと寂しかったりします。運命共同体として原作を預かって、良い映画にしてお返ししたい、という意識を多分みんな持っていると思います。
浅田:なるほど。
中井:だから、出演したほうがいいですよ(笑)。今回はアドリブも出ていたし。
浅田:僕は生来、恥ずかしがりなんですよ。でも、現場に出たら出たで……。
中井:サービス精神を発揮してしまうんですよね(笑)、いっそ、(自分の監督作品に必ずワンシーン出演していた)ヒッチコックの“原作者版”になったらどうですか。
浅田:でも、ヒッチコックの場合は、通行人でも何でも、ヒッチコック自身の姿で出るから、それほど恥ずかしくない。今回みたいな「茶店の親爺」役は、ヒッチコックはやらんと思いますよ(笑)。