約90%が袋とじ! でも開けたくない人、続出の“伝説の奇書”復刊

エンタメ 文芸・マンガ

  • ブックマーク

Advertisement

 2014年1月20日、ミステリーマニアの間で長年待ち望まれていた、伝説の一冊が復刊した。初版は1994年、実に20年の時を経ての復刊だ。発売当時からその本の特殊なトリックが話題となり、長年ミステリーマニアの間で絶賛されながらも、ここ何年もその本を“最も楽しめる状態”で手に入れることはとても難しかった。絶版であるということはもちろんのこと、図書館で借りたり、古書店で古本を入手したり、電子書籍などでは絶対に楽しむことのできない前代未聞の仕掛けがその本自体に施されていたからだ。

 それが『生者と死者―酩探偵ヨギ ガンジーの透視術―』(泡坂妻夫/著 新潮文庫)だ。

■本全体が袋とじ。切り開くと「消える短編小説」

 その前代未聞の仕掛けとは何か? この本の売り文句はこうである。

「この本は絶対に立ち読みできません。はじめに袋とじのまま、短編小説の「消える短編小説」をお読みください。そのあと各ページを切り開くと、驚くべきことが起こります――。そして謎の超能力者と怪しい奇術師、次々にトリックを見破るヨギ ガンジーが入り乱れる長編ミステリー『生者と死者』が姿を現すのです。」

 なんと、本全体が14の袋とじとなっているのだ。袋とじを切らずに間に書かれた部分を読むと短編小説。そして切り開いて読むとあらたな長編小説が現れるというわけだ。これではたしかに図書館や古書店、電子書籍で読もうとしても無理な話である。紙の本ならではの仕掛けだ。

本全体が14の袋とじ! そのまま読むと「短編小説」、切り開くと「長編小説」

 あるミステリーマニアはこう語る。

「短編で一度、切り開いて長編を一度、その後袋とじが閉じた状態で短編小説をもう一度読みたくなります。これは絶対に二冊買っちゃいます」

■作家・奇術師、泡坂妻夫ブーム

『生者と死者』を書いたのは泡坂妻夫氏。直木賞も受賞しているミステリー作家でありながら、奇術師として有名であった。作中で活躍する主人公も奇術師が多く、怪しげな超常現象に隠されたトリックをマジシャンが暴くシーンなども見受けられ、昨今話題のTVドラマ「TRICK」などにも影響を与えているようだ。
 
 昨年末泡坂氏のもうひとつの傑作『しあわせの書―迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術』(新潮文庫)も話題を呼んだ。NHKラジオ第1「ラジオ深夜便」でスポーツ・コメンテーターの益子直美さんが『しあわせの書』を紹介し、番組内でこの本を使った手品を披露。こちらも27年前に出版された書籍が一躍ベストセラーに躍り出た。

『しあわせの書』も『生者と死者』同様紙の本ならではの仕掛けが施され、本自体に隠されたトリックに新しい読者も驚愕し、泡坂妻夫氏が再評価されたというわけだ。この度の『生者と死者』の復刊もそのブームを受けてのことだろう。

 残念ながら泡坂氏は2009年に亡くなってしまっているが、死してなお読者たちを右往左往させるその様は、奇術師としての面目躍如といったところだ。

 これから迎える電子書籍時代の本格化を見据えながら、紙ならでは特色を持ったこの本を手に取った読者は、紙の本の持つ魅力を再度考え直すきっかけとなることだろう。

本書の読み方。(本書帯より)

デイリー新潮編集部

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。