ハゲタカファンドも目を付ける ソニー映画部門の復活劇

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 11月21日ソニーがカリフォルニアで行った投資家向け説明会で、エンタテインメント部門で年間250億円の経費削減を行うと発表した。その場で平井一夫CEOは「ソニーのエンタテインメント部門はソニーのコア事業であり、今後の成長に不可欠なものである」と語った。
 この表明は明らかにヘッジファンド、サード・ポイントを運営する「物言う株主」ダニエル・ローブ氏の提案を受けてのものだろう。

■ハゲタカの提案

 今春ソニーの大株主であるローブ氏はエンタテインメント部門の分社化を提案した。
 ローブ氏はエレクトロニクス部門に対する低い評価が、エンタテインメント部門の過小評価に繋がっていると語り、エンタテインメント部門を独立させ別会社としてIPOすることを求めた。本体を身軽にしたうえで家電事業に注力し本体の建て直しをはかり、「隠された宝石」エンタテインメント部門は独立して上場させ、株主の目に収益構造を晒し、厳しくコスト管理を行うことによって、市場にこの部門の価値を正しく評価させることができる。それがソニー全体の株主価値が大きく向上するシナリオだというわけだ。

 それを受けてのソニーの回答が今回の施策だ。社内で合理化を図るので、他事業とシナジー効果のあるエンタテインメント部門に口を出さないで欲しいといったところか。

■ソニーの隠された宝石

 ソニーのエンタテインメント部門はハゲタカファンドが「隠された宝石」とまで呼び、ソニー自身が厳しいコストカットを進めてまで手放すのを拒むほど魅力的な部門なのだろうか。たしかに第2四半期の決算短信では音楽部門は97億単位の営業利益を誇り、人気歌手を多数抱え好調のようだ。さらに映画部門は前年同期と比べると減収ではあるものの、それは前年に公開された「アメイジング・スパイダーマン」の大ヒットの反動を受けてのもの。2014年公開予定の「アメイジング・スパイダーマン2」では更なる増収増益が予想される。

■ハリウッド初の日本人経営者

 ソニーが映画事業を手に入れたのは1989年。由緒あるコロンビア・ピクチャーズを買収し、コンテンツ産業全般にみられる、華やかで贅沢だが全てが「どんぶり勘定」で進む乱脈経営と向き合った。やがてソニーは映画事業での失敗が明確になり、負債まみれのソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)の大改革を行った。その先頭に立ったのがソニー本社より送り込まれた、野副正行氏だ。当初は副社長として、その後99年には共同社長に就任し、ハリウッド大手スタジオで初の日本人経営者となった。

■「テンプレート」と「ポートフォリオ」

 野副氏は赤字続きで死に体のスタジオに「数値化」「可視化」といった手法を持ち込んだ。近著『ゴジラで負けてスパイダーマンで勝つ―わがソニー・ピクチャーズ再生記―』でその具体的手法が語られている。

・テンプレート
作品を「ジャンル」や「予算規模」でグループ化し、商品の特性・リスク・位置づけを具体化し、可視化する方法。
・ポートフォリオ
規模やジャンルの違う作品群を組み合わせ、興行収入が最大になるように年間の公開映画を決定する方法。

 これらの手法を駆使し、スタジオ経営を軌道に乗せ、やがていくつかの原石を掘り出すことに成功した。「スパイダーマン」「メン・イン・ブラック」などのシリーズ化されたビッグタイトル達だ。安定して興行収入が見込めるシリーズ映画はSPEを原石から輝く宝石に変えた。
 さらに近年では「007」「ロボコップ」「スマーフ」などの有力シリーズ映画の配給が始まり、SPEは映画市場の占有率No.1のスタジオにまで成長した(2012年Box Office Mojo調べ)。

 ハゲタカファンドが「ソニーの隠された宝石」として狙いを付けるのもさもありなんというところだ。今回のコスト削減が進めば、ソニーのエンタテインメント部門は更なる価値を持つことになるだろう。また今回発表された映画公開本数の削減は野副氏が考案した映画スタジオにおけるポートフォリオ理論を一層しっかりと現場に適用すると言う意味だろう。

 野副氏の語るSPE復活にいたる道筋は、苦境に陥った日本のコンテンツ・ビジネスを再生するヒントが詰まっているのかもしれない。

デイリー新潮編集部