物語は物語で繋がれる 酒井若菜/私の名作ブックレビュー【書評】

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 太田光さんの紡ぐ物語はいつだって優しくて温かい。読者が抱える見えない未来に希望を持たせてくれる。[荊の姫]の舞台は、いつの時代のどこの話なのか明確にされていない。しかし「今ではなく」「ここではない」「誰か」を描くことで、何故か読者は「今」と「ここ」と「自分」を感じることができる。

 その繊細な感情表現は、いつも私の心を奪う。一方で[人類諸君!]では、TVと変わらぬ太田イズムがいかんなく発揮され、[タイムカプセル]や[ネズミ][魔女]での多角的な描写は、弱者が持つ力と強者が持つ力を同時に包容している。表題作[マボロシの鳥]に出てくる芸人チカブーの言葉に著者の姿を重ねる読者は多いと思う。だけど私は、チカブーに話しかける中年男も、タンガタも、そして幻の鳥も、著者自身のことを描いているとしか思えない。他の作品の登場人物も、全て。作家は登場人物に憑依するのが常だが[冬の人形]は作家が作家に憑依を試みた異色な作風。[奇跡の雪]では、物語でなければ危険なほどに、著者の信仰に対する理解とも言える思いが息ぶいていて胸を打つ。

 最後の章[地球発……]からは、著者と本の、関わりの歴史が垣間見える。本は想像力から生まれる。想像力があらたな想像力を生み、物語が物語で繋がれた。この小説集を読むたびつくづく思う。人の心を動かす太田さんのその姿は、幻の鳥と、本当によく似ている。



酒井若菜(さかい・わかな)
1980年生まれ。小説『こぼれる』、エッセイ『心がおぼつかない夜に』を刊行。NOTTVにてドラマ『オンナ♀ルール~幸せになるための50の掟~』が放送中。