発達障害のある10歳の息子…「手帳を取ったほうがコスパがいい」と暴言を吐く夫と、将来への影響が気になる妻【専門FPが解説】
わが子が発達障害と診断された。夫は、学校に配慮を求めやすくなり、税の控除や施設利用料の割引で家計も助かると考え、障害者手帳の取得を提案する。一方、妻は、手帳を取ることで息子の進学や就職に影響があるのか、手帳のことを本人にどう伝えればいいのかと迷っている。実際のところ「手帳をめぐる制度上の不利益」は存在するのだろうか。年間100世帯以上の相談にのる発達障害専門のFPで、ADHD当事者でもある岩切健一郎さんに、障害者手帳を巡る「誤解されやすいポイント」を聞いた。
※自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などを含む、いわゆる「発達障害」は、医学的な診断分類では「神経発達症」となっている。この記事では、一般的に使用されている「発達障害」の名称を使用する。
※「障害者手帳」には、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種類がある。この記事で取り上げるのは、発達障害のある人が申請することの多い精神障害者保健福祉手帳(以下、手帳)。知的障害を伴う場合などは療育手帳の対象となることもある。
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【case】入学直後の呼び出し、診断を経て、夫が切り出した「手帳」の取得
東京都在住の会社員・千佳さん(43歳、仮名)は、10歳になる長男の学校生活を巡って、連日夫との話し合いを重ねている。始まりは、長男が公立小学校に入学してすぐのことだった。「息子さんの学校での様子についてご相談が」と担任から呼び出されたのだ。
じっとしていられず、授業中に席を離れて教室を歩き回る。配布物は机に入れたまま。忘れ物が続く。担任はこうした学校での様子を千佳さんに伝え、「一度、専門家に相談してみては」と勧めた。
児童精神科を受診したところ、発達障害があると診断された。医師の指導のもとで服薬を始めると、落ち着いて過ごせる場面が次第に増えたという。
一方、「薬で少しマシにはなった」というものの、音に敏感で、体育館などの大きな音が響く場所では今も過ごしづらさがあるという。クラス替えや大きな行事のたびに、学校に対して息子の特性に関する説明を重ねる日々が続き、千佳さんは疲れ切っていた。
そんな千佳さんを見かねてか、ある日、夫が「精神障害者保健福祉手帳を申請しよう」と提案してきた。
「夫は『手帳があれば学校側にも公的な証明として配慮を頼みやすくなるんじゃないか。それに、親の所得税や住民税の障害者控除も使えるし、いろんな施設の割引もある。家計的にもコスパがいい』と言うんです。確かにそういう利点はあるのかもしれません。でも、手帳を取ることでこの先、進学や就職に響いたりしないんでしょうか」
【FPの助言①】手帳を持っていても、一般枠に応募できる
「千佳さんのように、障害者手帳の取得をためらう親御さんは本当に多いです」
『発達障害かもだけど、お金のことちゃんとしたい人の本』の著書もあるFP・岩切健一郎さんは、相談現場で幾度となく目にしてきた光景を振り返る。精神障害者保健福祉手帳は、発達障害のある人も申請できる。日常生活や社会生活にどの程度の制約があるかなどを踏まえて審査されるが、交付を受けると、本人や扶養する要件に応じて親が障害者控除を受けられるほか、自治体や事業者によっては、交通機関や施設の利用料などが割引になる場合も。
「ぼくは、障害者手帳そのものによる制度的なデメリットはほとんどないと考えています。まず、戸籍や住民票に記載されることはありません。当事者が就職後、勤め先に障害者であることを知られるのではないかと不安に思う方もいらっしゃいますが、手帳の取得を勤務先に自動的に通知されることはありません」
もっとも、親が年末調整で障害者控除を申告する場合は、親の勤務先に提出する書類にその内容を記載する。ただし所得税の障害者控除は、確定申告で受ける方法もある。
「手帳を取ると障害者枠でしか働けなくなるのでは」という懸念もある。しかし岩切さんは、
「手帳を持っていても、一般枠で応募する道が閉ざされるわけではありません。一般枠の応募で、手帳の有無を申告する決まりも原則としてありません。厚生労働省の障害者差別禁止指針でも、『単に障害者だからという理由で応募を認めない』『業務遂行上必要でない条件を付けて障害者を排除する』といったことは差別にあたるとされています。手帳があれば、一般枠に加えて障害者雇用枠も選べるようになる、つまり選択肢が増えると捉えてはどうでしょう」
と話す。
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