投げ銭で1億円――中間選挙で注目される極右インフルエンサー「ニック・フエンテス」の正体とレトリック

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 11月3日に行われるアメリカの中間選挙で注目すべき人物がいる。ネット上で過激な主張を繰り返し支持を集める、極右インフルエンサーのニック・フエンテス(Nick Fuentes)だ。今や政界にも一定の影響力を持つとされる同氏は民主党に投票するように広く呼びかけているが、彼に対する支持は共和党内部でも広がりを見せていると米主要各紙は報道する。こうした「オルタナ右翼」を長く研究する識者への取材も交えながら、政治的に過激化するZ世代のオピニオン・リーダーの実像に迫る。※取材・文=湯浅大輝(フリージャーナリスト)

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投げ銭で1億円を稼ぐ「危険人物」

 ニック・フエンテスという28歳の若者をご存知だろうか? フエンテスは11月3日の米中間選挙において、共和党への投票拒否を呼びかける「アメリカ第一主義(America First)」の論者として、オンライン上で支持を集めている。

 フエンテスはそもそも、アメリカでは危険人物として扱われている。YouTubeやFacebook、TikTokなどの主要プラットフォームからは事実上追放(※)されているため、Rumbleという一風変わったメディアで投げ銭(スーパーチャット)を得ることで言論人として生活していると見られる。

 実際、フエンテスの商売はかなり手堅いようだ。米The Washington Postは、2025年1月から2026年3月までの投げ銭の総額が約90万ドル(約1億4000万円)に達したと報じている。なんと1万1000人の寄付者がいた、と同紙は付け加えるのだ。

※Xでは公式マークが付いていないだけで、本人のアカウントは存在する(フォロワー数は約130万人)。フエンテスは常々、「公式マークを付けてくれない」とのことで同じく保守派のイーロン・マスクを攻撃しているが。

 フエンテスは2016年からトランプ支持を明確にし、2021年には議会堂襲撃事件にも関与していた。The New York Timesのインタビューには「以前は(トランプを)西洋文明を救うカエサルのような人物だと思っていた」と答えるなど、MAGA運動にシンパシーを持っているように思われてきた。

 そんな彼はきたる中間選挙に向けて、「トランプはダメだ。民主党に投票しよう」と煽動する。フエンテスはトランプ大統領の対イラン政策に大反対であることに加え、そもそも上下両院において共和党の影響力が強すぎることを問題視している。

 ヴァンス副大統領に対しても「ピーター・ティールが研究室で作り上げた、完全な人工物」として批判キャンペーンを張るなど、かつてあれほどMAGAを推した姿からは想像もつかない主張を繰り返している。

 共和党議員や保守派の論者もフエンテスやその支持者らを快く思っていない。保守派の主要な集会であるCPACやTurning Point USA(25年に銃撃された故チャーリー・カークが創設した)からは出禁になっている。

共和党内部でも広がる、Z世代のフエンテス支持者たち

 なぜ、フエンテスはこれほど危険視されるのか。それは同氏の主張が非常に過激だからだ。保守運動は「イスラエル・ロビーの道具」、フェミニズムは「根絶しなければならない」、黒人は「同胞の犯罪に対して、恥じるべきだ」──。

 動画配信者が過激な主張を繰り返すだけなら、それほどの影響力はないとも思えるかもしれない。ところが、フエンテスの主張に共感する支持者たち、通称グロイパー(Groyper)は相当数いて、なんと共和党内部のスタッフにも多数いると推定されているのだ。

 保守系作家のロッド・ドレアは、ワシントンで働く30歳未満の共和党スタッフの30~40%がグロイパーの可能性がある、と指摘する。The New Yorker誌のルポでは、政府当局筋の話として、「一般の人から見れば75%程度がグロイパーと映るかもしれない」とその広がりが強調されている。

 この当局筋は続けて、「フエンテスとその支持者たちの運動は、サイレント・マジョリティの右傾化という大きな社会学的現象から派生した存在だ。今や、トランプ運動を超えたものへと発展している」とコメントしている。もはや一部の過激な少数派たち、と過小評価できないのかもしれない。

 実際、共和党の現職議員たちも、フエンテスとグロイパーたちの影響力に困惑している様子が伝わってくる。米The Wall Street Journalの論説『Republicans have a ‘Groyper’ Problem』では、テッド・クルーズ上院議員の「グロイパー問題は現実のもの。過去2年間、私の人生の中で見たことがないほど、右派による反ユダヤ主義を見せつけられてきた」というコメントを紹介した。

 なぜニック・フエンテスは人気を集めているのか。彼の影響力はどれほどのものなのだろうか。そして、ポスト・トランプを見据えた時、アメリカの保守主義はどのような分裂を見せるのだろうか。

オルタナ右翼の研究者が注目するフエンテスのレトリック

『The Rise of the Alt-Right』(2018年)などでアメリカのオルタナ右翼の研究を続けてきたニューヨーク市立大学教授で政治学者のトーマス・メイン(Thomas Main)氏は、フエンテスに代表されるような過激派を「自由民主主義の本質への否定的勢力」と表現する。

「そもそも、私がオルタナ右翼を研究材料として取り上げた2010年代後半は、『こんな連中はそもそも少数派だし、話題にして自分を汚すことはない』というふうに口に出すだけで嫌がられたものだ。それが2026年をみてみよう。今や、フエンテスのような『非自由主義(Illiberalism)右派』はアメリカの自由民主主義(Liberal Democracy)に対する現実的脅威になっている」(メイン氏)

 メイン氏の論理は以下のようにまとめられる。アメリカの自由民主主義の本質は、まず法の支配があり、基本的人権が保障されていて、寛容と議論を重んじる文化に支えられている。成人の普通選挙権に基づいて、定期的に選挙を実施し、政府の公職に就く人々を選ぶ。

 ところが、トランプ大統領を含めた「非自由主義右派」は、この本質を否定しているとメイン氏は主張する。

 2021年の議会堂襲撃事件に先立ち、トランプは民主的選挙の正常な権力移行を妨害した。そのような大統領が現職であり、いまだに2020年の選挙を「不正選挙」とみなしていることそのものが、アメリカの自由民主主義への否定だ、とメイン氏は捉えているのだ。

 メイン氏は、フエンテスも非自由主義右派の代表格だとみなす。特に注目するのが、彼が多用するレトリックだ。

〈レトリックの読み解き、米中間選挙への影響、今後のアメリカにおける「保守」の行方などについて、新潮QUEで詳報している〉

湯浅大輝(ゆあさ だいき)
フリージャーナリスト。同志社大学在学中に米アリゾナ州立大学へ交換留学。卒業後、記者としてのキャリアを開始し、経済メディア、小売専門誌を経て独立。教育、小売、海外スタートアップ、国際情勢、インフラなど多様なテーマを取材・執筆している。過去携わった書籍に『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)、主な特集記事に「出生数75.8万人の衝撃」「奈良のシカ」(ともにJBpress)、「リニア 20世紀最後の巨大プロジェクト」(NewsPicks)、「精肉MDの新常識」(ダイヤモンド・チェーンストア誌)など。

デイリー新潮編集部