【ブラッサム】宇野千代最大の自慢はドラマに頻出する「錦帯橋」…ドラマを100倍楽しむための“岩国のうんちく”

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わずか7年で破壊されてしまった岩国城

 江戸時代には武士と御用商人しか渡れなかったが、明治以降はだれでも渡れるようになった。宇野千代の生家は、錦帯橋をはさんで錦川の「横山地区」の側にあったが、錦錦帯橋から錦川沿いを下流へ20分ほど歩いた川西地区にあり、城下町からは外れている(宇野自身の手でかつての姿に戻され、公開されている)。だが、「錦見地区」にあった叔母の家を訪ねるために、幼少時からたびたび錦帯橋を渡ったという。

 宇野は知人宛ての手紙に「わが故郷岩国の錦帯橋は私にとりまして、日本中に自慢しても自慢しきれないほどの大切な橋でございます」と書いている。また、『私の幸福論』には次の言葉も記されている。「桜も日本一、錦帯橋も日本一、こんな日本一の故郷を持っているような幸せ者が、この日本にまた二人とあるだろうかと思って、私はとても故郷に感謝しているのである」。

 ところで、先ほど、「岩国藩があったわけではない」と記した。というのは、岩国の領主だった吉川家は、あくまでも周防国(山口県東部)と長門国(同西部)を治める毛利家の家臣で、徳川家から見れば陪臣にあたった。幕末までは岩国も独立した藩ではなく、毛利家長州藩(萩藩)内の「岩国領」だったのである。

 関ヶ原合戦で毛利輝元は西軍の総大将を務めたが、家臣の吉川広家(毛利輝元とは従兄弟の関係)は徳川家康と内通し、家康との決定的な対立を避けるように努めた。戦後も毛利家存続のために奔走した。結果として、毛利家はそれまでの112万石から2カ国約30万石にまで減封されたが、とにかく取り潰しは免れ、安芸(広島県西部)に近い3万石が、広家に分地された。このとき岩国の地が選ばれ、横山の山頂に城が築かれるとともに、山麓に吉川家の居館と政庁が築かれ、堀で囲んで防御された。

 山頂の城は慶長8年(1603)から築城工事がはじまって、13年(1608)に竣工。広家は山麓から眺めたときの美観まで気にして細かく指示を出し、総石垣のかなり本格的な城が築かれ、壮麗な天守も建った。ところが、完成してわずか7年後の元和元年(1615)、幕府は一国一城令を発布。これは各大名を統制するために、居城1つを残して残りの城はみな破却するように命じた法令であった。

 だが、複数の国を治める大名の場合、複数の城の存続が許される例もあった。広家も、毛利家の本拠は長門国の萩城(山口県萩市)で、周防国には岩国城しかないのだから、壊す必要はないと訴えた。だが、関ヶ原合戦で幕府に睨まれているという意識がある毛利家は、おとなしく幕府に従う道を選び、広家が手塩にかけた城は、破却の憂き目を見たのである。

観光用に目立つ場所に建てられてしまった

 こうして山頂の城郭は壊されたが、山麓の居館と政庁は、堀と石垣に囲まれた事実上の城として存続し、岩国領の中核として明治維新まで存続した。その城下町が、宇野千代が育った岩国だった。

 ところで現在、錦帯橋から横山を眺めると、山頂に天守が建っている。これは昭和37年(1962)、『伝岩国城断面図』等をもとに、熊本城(熊本市)や和歌山城(和歌山市)など多くの天守の復元に携わった藤岡通夫氏が設計し、鉄筋コンクリート造りで再建されたものだ。一国一城令で壊された天守の外観が、その時点でわかる範囲で再現されている。

 横山山頂に登ると(ロープウェイがある)、この天守が建つ50メートルほど後方に、かつて天守が建っていた石垣(天守台)がある。いったいどういうことか。要するに、山麓からよく見えるように、つまり錦帯橋から天守がよく見え、その景色が観光誘致につながるように、元来、天守が建っていた場所よりも山麓寄り、錦川寄りに建ててしまったのである。

 元来の天守台は再建天守が建つ天守台よりかなり高いので、たとえ50メートル奥に天守が建っても、周囲の木を伐採するなどすれば、天守は山麓からよく見えたと思われる。そもそも吉川広家自身、前述のように山麓からの美観を意識して築城したのだ。そういった事情をよく考慮せずに、安易に史実が改変されてしまったことは残念である。

 ただし、『ブラッサム』に登場する錦帯橋の光景からは、天守はちゃんと消されている。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動を行うほか、歴史的な視点を応用し、経済から文化まで現代のさまざまな社会状況にも言及。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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