中国製軍事AIはためらいなく人を殺せる キル・チェーンのスピード競争は止まらない

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 高市政権が進めている軍事AIの導入と、それに密接な関係にある「機密情報を外国製クラウドサーバーに預ける」という方針の危険性については、前回の記事(この防衛政策は愛国どころか売国ではないのか  高市政権が進める「軍事AI導入」の知られざる恐ろしさ)でお伝えした通りである。

 同記事の執筆者であるジャーナリストの烏賀陽弘道氏によれば、軍事AIの導入は不可避であり、アメリカとの連携には合理性もある、という。というのもこの分野においても中国の台頭は凄まじいからだ。以下、烏賀陽氏が新潮QUEに寄稿した記事【防衛省が自国のAI技術を頼れない絶望的な理由】から、軍事AIの分野での米中の差を見てみよう。

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アメリカ製よりもはるかにワイルドな中国の軍事AI

 前回の記事では、軍事AIとドローンを中心に、防衛産業と戦争の現状をビッグピクチャーで捉え、解説を試みた。今回は、この状況に日本はどのように対応できるのか、いや正確にはどれだけ対応できていないのかについてご説明していく。

 最先端のアメリカ製軍事用AI「パランティアAI」と「アメリカビッグテック企業の巨大データセンター施設」と「攻撃型自爆ドローン」の三つを自衛隊が活用できるようになれば「日本版キル・チェーン」が完成する(※キル・チェーンとは「攻撃対象の発見から破壊まで」の一連の軍事行動を指す)。これは前回ご説明した通りだ。自衛隊の殺傷能力が高くなることの是非はここでは論じない。問題はこれが本当に日本の防衛能力を高めることになるのかである。

 日本と米国が友好国で、軍事行動においても共同歩調を取るのを前提とするなら、両国のシステムは同じものを使っていた方がいい。「同盟国と同じ口径のライフル銃を採用したほうが、戦場で銃弾も共有できる」のと同じ理屈である。

 パランティアAIは「戦争」のスピードを異次元に速くしてしまった。なにしろ、それまでは人間が12時間かけて決めていた攻撃対象の発見から破壊までを数秒で決定してしまう。米軍AIが数秒で決めることを、自衛隊指揮官がモタモタと12時間かかっていては、共同作戦もヘチマもない。米軍の足を引っ張るだけだ。日米同盟は不変であり、一種の属国状態を未来永劫続けるというのならば、日米が同じシステムを用いることは合理的であり、防衛能力の強化につながる、という理屈は成り立つかのようにも見えるだろう。

 しかし、ここまで触れていなかったが、軍事AIは当然他国も活用している。いまや米軍にとって最大の仮想敵国になった中国・人民解放軍にも「パランティアAI」に該当するシステムは配備されている。

 米国防総省(DoD)が議会に毎年報告書を提出しているほか「ジョージタウン大学・CSET」(安全保障・新興技術センター)「米空軍大学・中国航空宇宙研究所」(CASI)が中国人民解放軍(PLA)の「智能化戦争(Intelligentized Warfare)」を詳しく研究して、報告書を出している。

 それらを参考に、中国の軍事AIの性能を米国と比較してみよう。

中国産AIはためらいがない

 ジョージタウン大学・CSETの報告書『China's Military AI Roadblocks』によれば、中国軍の研究者・将校自身が「米軍に対して依然としてAI開発・配備で後れを取っている」と論文内で率直に懸念を表明している。主な問題点を抜書きしてみた。

(1)データのタコツボ化:各軍種(陸・海・空・ロケット軍)の間でデータ規格が統一されておらず、パランティアのような全軍統合システムの構築に苦戦している。

(2)先端半導体(GPU)の調達ができない:米国の輸出規制で、最先端のAI学習・推論のための演算チップの確保が困難になった。

(3)実戦データがない:1979年の中越戦争以来、大規模実戦を経験していないため、アルゴリズムを鍛えるリアルな戦場データが不足している。中東やウクライナ、イランでの「実戦経験」を積んで、性能がアップしたパランティアAIと比較すると、まだ経験不足。

 一方で、中国が優位な分野として、中国電子科技集団(CETC)が開発する「無人機スウォーム(群知能)」「対艦弾道ミサイルのキル・チェーン最適化」などの領域においては、米軍と遜色ないレベルに達していると述べている。 

 さらに、中国の「前庭」である南シナ海の第一列島線周辺だけに限って言えば、データの蓄積と破壊兵器の配備量で勝っている。

 また、中国にはアメリカが持たない強みがある。アメリカ側は「交戦規定の遵守」など「人権に配慮した」アルゴリズムが設計されている。最後は人間が承認してスイッチを押さないと、実際の攻撃は起きない。

 中国軍は将来の戦場を「人間の思考速度では対処不能な極超音速・スウォーム戦」と定義。目標の探知(Find)、確定(Fix)、追尾(Track)、標的選定(Target)、攻撃(Engage)、評価(Assess)までのキル・チェーンをAIで自動化する研究を猛烈に推進している。要するに攻撃対象を見つけると自動的にぶっ放してしまう軍事AIだ。

 が、中国軍の中でも「信頼性の低いAIによる誤認」「友軍誤射」「民間人誤爆」「意図しない戦争のエスカレーション」を深刻に恐れており「信頼できるAI」を求める激しい議論が繰り広げられている。

 つまりは、AIが目標を瞬時に特定して攻撃プランを提示し、人間が数秒で機械的に承認ボタンを押す、事実上のオートマティック・キル・システムへシフトしているのが実態だ。

 コンマ数秒を争うAI同士の戦争になると「人権」「倫理」に配慮しない国のほうが攻撃は速いという、暗いシナリオが出現する。「非戦闘員や一般市民が巻き込まれて何人死のうがお構いなしの、より残虐な軍」の方が強いということになってしまう。

 中国式はモラルの点では問題が大いにあるが、効率という観点からは大正解ということになる。AIが情報分析から作戦立案、攻撃対象の選定と攻撃方法の推薦までやってくれる「軍事作戦指揮の頭脳」になると「AIの情報処理スピードや効率で勝る国が軍事的に有利になる」という現象が生まれる。

 戦車や戦闘機、ミサイルや駆逐艦といった従来の「兵器」は「AIが考えた破壊と殺戮の計画を実行するためのハードウェア・または端末機器」にすぎない。つまり「AIの性能が一国の軍事力を決める」という結論に至る。

 ならば「ポスト軍事AI時代」の軍事拡張競争は、核兵器の破壊力でも弾道ミサイルの飛行距離でもなく、AIの性能競争になるのが必然である。

 こうして「AI~巨大クラウド~ドローン」の「キル・チェーン」は、米国の軍事技術・軍需産業の基幹になった。こうなると「より性能の高いAIを持った国が戦争に勝つ」「世界の覇権を握る」というレベルの話になってくる。

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 日本にとって同盟国であるアメリカがこの分野で先頭を走っていることは心強い点である。が、問題は言われるがままに米国企業のAIを導入し、米国企業のクラウドサービスを利用するリスクへの意識が低く、防御策が講じられていない点にある、と烏賀陽氏は記事の中で厳しく指摘している。

 どのようなリスクがあるのかについては、関連記事〈【詳しく読む】防衛省が自国のAI技術を頼れない絶望的な理由〉に詳しい。

烏賀陽弘道
1963(昭和38)年生まれ。京都大学経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。名古屋本社社会部、「AERA」編集部勤務などを経て退社し、フリージャーナリストに。コロンビア大学国際公共政策大学院修士課程(軍事論)修了。著書に『世界標準の戦争と平和 ―初心者のための国際安全保障入門』『プロパガンダの見抜き方』など。

デイリー新潮編集部

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