国立理系の大学院を経てIT大企業に入社も「集中力に欠け、ミスが多い」と酷評…急増する「大人の発達障害」が浮き彫りにした“令和の職場”の生きづらさ
ADHDが原因で2回の退職
最近、岩波教授が実際に診察した症例を紹介しよう。患者は男性で、都内の有名私大を卒業。理系のため大学院は地方の国立大学に進み、優秀な成績でIT系の大企業に就職した。
新入社員に与えられた仕事は生命保険会社のデータ分析。だがADHDは「不注意」という症状があり、「集中力に欠け、ケアレスミスが多い」という傾向が目立つ。
男性はADHDで、実務においてミスが多かった。おまけに作業に時間がかかった。会社の評価は低く、周囲から浮きあがるような状態になったため、男性は数年で退社を余儀なくされてしまう。
「男性は新興ベンチャー企業に転職します。ADHDの場合、『社交的で初対面の人でも会話が弾み、魅力的な印象を他人に与える』という個性を持つタイプが多いことが分かっています。ところが、この男性はどちらかといえば対人関係が苦手でした。それでも職場の雰囲気は非常に良く、人間関係は良好だったのですが、仕事量が桁外れだったため、男性の処理能力を超えてしまいました。誰かに相談すればよかったのでしょうが、人付き合いが苦手なこともあって職場で孤立してしまいます。再び退職し、今度は就労移行支援のサポートを受けました。そうした経緯で私が診察を担当することになり、ADHDと診断して投薬を開始しました」(同・岩波教授)
ストレスの少なかった昭和
ASDと違ってADHDは有効な薬が複数ある。投薬で男性の症状は改善を示し、現在は別のIT系企業に就職。今も勤務を続けているという。
「昔からADHDに罹患している大人はいました。ところが、当時は人の個性として受け入れられることが多く、社会生活で不適応を起こしても多くは問題とされませんでした。ならば現在、なぜ不適応が多発し、『大人の発達障害』が社会的関心事になっているのでしょうか。それは日本社会において大人の“生きづらさ”が増しているからです。昭和の時代を振り返ってみましょう」(同・岩波教授)
昭和の時代、モーレツ社員に代表される長時間労働や、パワハラ的な言動が日常茶飯事だった半面、営業担当の社員なら直行直帰は当たり前という“自由”もあった。
「携帯がないため仕事をサボって喫茶店や映画館で時間を潰しても会社側は把握できませんでした。内勤の社員で、関係書類の提出が遅れたとしても、少しぐらいなら上司は許してくれたものです。接待費をごまかして社員の飲み会に流用することもありました。昭和の職場は今よりもストレスが少なかったのは間違いありません」(同・岩波教授)
コンプライアンス意識が向上した一方、成果主義と効率化が徹底された令和の職場と比べると、昭和の職場は人に優しかった面もあったと言えるかもしれない。
「大人の発達障害」3つのハードル
ADHDの人が職場で直面するハードルは3つあり、それぞれ「新入社員」、「管理職」、「幹部社員」という3つの時期に現れるという。
新入社員でミスを連発し、退職に追い込まれるケースは前に見た。それを乗り切っても、管理職になると耐えられないほどストレスが増大し、幹部社員に昇りつめても休職を余儀なくされる……。
後編【会社に勤める「大人のADHD患者」を悩ませる“6文字”の最も苦手な作業とは? 大変なのは新入社員時代だけではない…年次を重ねて直面する“3つのハードル”】では、ADHDの人が辿る典型的な人生と、その対処法について詳しくお伝えする──。
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