「福岡県議会のドン」をもてはやしていた新聞記者たち 「新聞不信」の元凶は誰なのか

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西日本新聞を称賛

 週刊文春の名物コーナーの一つが「新聞不信」という匿名コラム。新聞社の偽善や手抜きを見逃さず、厳しく批判する欄である。

 9月10日号のタイトルは「西日本新聞を追うばかり」。前福岡県議会議長の蔵内勇夫氏に関する報道を取り上げている。「福岡県議会のドン」「日本一悪い男」などの異名が急に知られるようになった蔵内氏が「追い込まれ、一転して議員を辞めたというドラマが面白くないわけがない」という筆者は、地元紙、西日本新聞の報道を高く評価して次のように述べている。

「一連の報道で先行したのは福岡県に本社を置く西日本新聞だった。一般論として地方紙と地元政界には因縁浅からぬ関係がある。同紙もご多分に漏れないはずだが、それでも怯むことなく書き続けたことは最大限の称賛に値する」

 続けてそれと比べて全国紙は「後を追うばかり」で「仕事を放棄しているに等しい」と厳しく非難する。「新聞不信」の面目躍如である。

 たしかに蔵内氏をはじめとする県議会の問題点を西日本新聞が追及したのは事実だろう。蔵内氏が主導したと見られる「ワンヘルス」構想に税金が投入されたことなどが現在、問題視されている。ワンヘルスとは人間と動物の健康を別々ではなく、一体的に捉えるという考え方だ。

 しかし、引用文にもあるように地方紙と地元政界には深い結びつきがあるというのは常識。最近になって追及したからといって、それは「最大限の称賛」に値するものなのだろうか。

ワンヘルスを持ち上げていた過去

 ジャーナリストの烏賀陽弘道氏は、著書『フェイクニュースの見分け方』の中で、ニュースを読み解く際に、「ビッグ・ピクチャーをあてはめよ」と述べている。「ビッグ・ピクチャー」とは何か。

「ある事実Fがあったときに『空間軸』と『時間軸』を広げ、その座標軸に事実Fを置いて検証しなおしてみることだ」(『フェイクニュースの見分け方』より)

 要は「視野を広げる」ということなのだが、では蔵内氏や地元県議らについて地元紙や大手新聞社の支局はどのように報じていたのか、時間軸を広げて見てみよう。

 たとえば2013年6月28日付西日本新聞は、「ひと」欄で蔵内氏を取り上げている。

「九州から初めて日本獣医師会長に選出された蔵内勇夫さん」というタイトルの記事はこんな文章で始まる。

「県議会議長も経験した政治家としての鋭い視線が、動物の話になると驚くほど柔和になる。『すべての生き物に尊厳を』。この信念を胸に、全国の獣医師のまとめ役となる」

 この「すべての生き物に尊厳を」が今批判されている「ワンヘルス」という思想である。「ひと」欄だから仕方がないとはいえ、まるで「プロジェクトX」のようなトーンだ。このあとも「ワンヘルス」に関する記事は何度も出てくるが、西日本新聞は基本的に肯定的に捉えている。「理想は良いとして、イベントやハコモノに多額の税金を投入するべきなのか」「それって厚労省など国の管轄であって、県議の仕事じゃないのでは」といったツッコミはほぼ見られない。

 2014年9月27日付西日本新聞に掲載された蔵内氏インタビューは象徴的である。「『ワンヘルス』の理念共有」との見出しを掲げ、2回にわたって掲載された蔵内氏と地元出身の当時の日本医師会会長(横倉義武氏)へのロングインタビューの締めの質問はこうだ。
「最後に、地方組織の声をどう取り上げていくかを含め、全国組織のトップとして会をけん引する決意と抱負をお願いします」

 そして彼らの答を受けて記者はこう述べている。

「藏内会長、横倉会長の地元福岡では、それぞれの活躍を祈るとともに、旧知の間柄であるお二人の協力が進み、素晴らしい成果が実ることへの期待もあります。ありがとうございました」

 普通に読めばワンヘルス構想に共感して共に進もうとしている姿勢にしか見えないだろう。何せ「期待」しているのだ。

 ただし西日本新聞の名誉のために申し添えれば、この時期、大手新聞にもほとんどワンヘルス関連事業に税金を投入することへの批評的な観点での記事は見られない。知事選の争点になった時に、対立候補の主張として紹介するくらいで、あとはワンヘルスについて批判的な記事はつい最近までほとんど見当たらない。「ワンヘルスフェスティバル」「ワンヘルスパーク」「ワンヘルスセンター」「ワンヘルスの森」等々について、「福岡県が税金を費やすべき事業なのか」などと疑問を呈した形跡も見られない。

 海外視察やワンヘルスに対して懐疑的な見方の記事が紙面で目立つようになったのは今年に入ってからである。これも蔵内氏が「ドン」たるゆえんだろうか。

 蔵内氏からすればワンヘルスは長年、地元メディアと共に追求していたはずの理想である。それが「たかり疑惑」以降、風向きが急に変わり全否定されているのが現状。自業自得とはいえ、彼もまた「新聞不信」になっていてもおかしくない。しかもワンヘルス事業について「素晴らしい成果」を期待していた新聞の方は、いつの間にか週刊文春に「最大限の称賛」を浴びているのだ。

 なお、烏賀陽氏は前掲書で、ニュースに接するにあたっては「『記者が何を書いたか』ではなく、むしろ『何を書かなかったのか』に注意を向ける習慣を身につける」ことを勧めている。

 福岡県議会が持つ構造的な問題については、新潮QUEに掲載されているJX通信社代表取締役・米重克洋氏による寄稿【地方に居座る「ドン」誕生のメカニズムとは――福岡県議会問題の根底にある選挙制度の欠陥】で「不正のトライアングル」という視点で詳しく解説している。

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