“買う側は野放し”の売春防止法は変わるか? 法務省が重い腰を上げた背景に「12歳タイ人少女」に“性的サービス強要”事件の衝撃
ノーベル文学賞の英国人作家
売春防止法は、70年前の1956年に制定された。売春の罰則は6か月以下の拘禁刑、または2万円以下の罰金だが、公衆の面前で客待ちをした場合など主に女性側、つまり「売る」側の勧誘行為は処罰するが、男性が大半を占める「買う」側への罰則が設けられていない「不均衡法制」(警視庁関係者)だ。
警察庁元幹部は「どう考えても時代遅れな法律ですが、これまで簡単に改正には着手できなかったのには、実は理由があるのです」と打ち明ける。
日弁連で副会長も務めたある法科大学院関係者は「女性からの搾取をなくすために買う側に罰則を設けるのは当然のこと。性を切り売りさせる行為は『ジェンダーの不平等に起因する暴力』そのものです」と強調した上で、こう危惧する。
「ただ、『最古の職業』と言われるように、売る側は生活がかかっている例も多く、規制しても売春行為自体はなくならない。買う側に罰則を設けただけでは犯罪自体を地下に潜らせるだけにとどまる可能性もある」
冒頭にも述べた「世界最古の職業」とは、英国のノーベル文学賞作家、ラドヤード・キップリングが1889年に発表した短編小説『城壁の上で』の一節から生まれた。この婉曲表現が、古代メソポタミアや古代ギリシャで神への奉仕の一環として性的な奉仕を行う「神聖娼婦」と呼ばれる人々が存在していた事実を根拠に、第一次世界大戦後、売春を意味するキャッチコピーとして世界中に定着したものだ。
悪質ホストクラブを巡って、客待ちをする女性だけが摘発されることを疑問視する声が次第に高まり、2025年11月には、当時タイ国籍で12歳だった少女が日本に連れて来られ、風俗店で性的サービスをさせられる事件が発覚した。少女は同年6月下旬に実の母親とともに来日。7月中旬に母親が少女を日本に置き去りにしたまま出国し、その後、少女は東京・湯島にある個室マッサージ店が用意した部屋に寝泊まりさせられ、40日間に70人の客を取らされていた。
少女が保護されたことで、買春の放置が人身取引の誘因となっているとして、国会で売春防止法の在り方を巡って議論が活発化。高市早苗首相が2025年11月、売春防止法の見直しの検討を指示したことで「法務省がようやく重い腰を上げた」(前出の法科大学院関係者)という経緯だ。
世界の法規制には4つのケース
検討会の資料によると、18歳以上に限定した場合、売春と買春について世界には4つのケースがある、第1は全面禁止。売買春双方を禁止とする国は世界で120か国に上り、国連加盟国の6割を占める。第2は「北欧モデル」と呼ばれ、買う側のみを処罰。「生きるため」といった動機を持つ売る側を被害者として保護するものだ。
第3は合法とした上で、一定の場所だけでしか行為を認めないモデル。「オランダやスイス、ドイツでは、これを採用することで売買春の『見える化』を進め、地下に潜るのを防ぐ取り組みを行っています」(前出同)。そして第4が全面的に非犯罪化しようという、豪州やオーストリアなどの一部の州だ。
ただ東京近県の県警で部長も務めた警察OBは「18歳以上であれば仕方がないという考えのようですが、死刑廃止や薬物の合法化など、同様に独自の判断をする国は常にあります。国情や思想、宗教観などさまざまな要因があるので、国ごとにそれぞれの考えがあるのは尊重すべきです」と指摘。その上で「ですが、日本がそれを参考にすべきかどうかは、また別の問題でしょう」と語る。
報告書では、「買う側」の勧誘も処罰対象にする一方で、合意のある売買春の「行為そのもの」の処罰は見送った。その上で罰金の上限引き上げと、売る側の借金や困窮といった事情に着目した“福祉的支援体制”の整備を求めている。法務省では報告書を踏まえ、今年度内にも国会に売春防止法改正案を提出する。
前出の警察OBは「取り締まりの現場がモヤモヤを抱えてきた売る側と買う側の不平等が、ようやく是正されるのは納得だ」とするが、さらに「選挙を意識した政治家が動いて初めて、法務省が重すぎる腰を上げるという流れでしか、法律が是正されないのは嘆かわしい」と話している。
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