「トミー・ジョン手術」は保険適用なら10万円台 それでも専門医が高校球児には「安易に手術を勧めない」理由

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 国際情報誌フォーサイト元編集長の堤伸輔氏は、『イチロー総監督「インパクト!」』『イチロー・インタビュー』(ともに新潮社刊)なども編集したメジャーリーグ通。国内ではパ・リーグのファンでもある堤氏が、近年、日米の野球界でトミー・ジョン手術(肘の靭帯の再建手術)が増えている現状について、専門医にインタビューを行った。

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日本での手術件数は年間230~240例

 今年8月16日、シカゴのリグリー・フィールドでカブス対セントルイス・カージナルス戦を見ているときに、MLBの速報でトミー・ジョンさんが前日に亡くなったのを知った。奇しくも、この試合の勝利投手ハンター・ドビンズ(カージナルス)もトミー・ジョン手術経験者だった。

 アメリカのプロ選手では年間平均約175人が肘にメスを入れている(人工靭帯手術を含む)という。この13年間、コロナ2年目の2021年の突出を除き、ずっと右肩上がりで増えている。2023年は年間で232人にのぼった。

 私はパ・リーグが好きでよく試合を観戦するが、たとえばオリックス・バファローズなど、先発から中継ぎ、セットアッパー、クローザーまで、すべて手術経験者を並べても余るくらいだ。中継ぎの吉田輝星投手らを中心に「トミー・ジョン界隈」というユニットを結成し、「界隈Tシャツ」をみんなで着るなど手術経験をポジティブに捉えている。

 今回、話を聞いた「野球ドクター」山田慎医師によると、日本でトミー・ジョン手術をおこなっている医療機関は47施設あるという。そのうち83%が年間5例未満。17%が年間5~20例。日本全体で年間230~240例と推定される。

移植した靭帯は「術後4カ月は弱くなる一方」

 山田医師は、日本有数の民間病院である亀田総合病院(千葉県鴨川市)にスポーツ整形外科医として勤務するかたわら、東京・中野の山田クリニックでも、多くのプロ、大学、高校、そしてそれより年少の野球選手たちを診ている。東北楽天ゴールデンイーグルスのチームドクターでもある。

 山田医師自身もプロの選手からアマチュアまで、トミー・ジョン手術を現在までに46例執刀している(楽天選手の執刀例はなし)が、決して「イケイケどんどん」という姿勢ではない。

「トミー・ジョン手術は、受ける側にほとんど情報がありません。特にアマチュア選手。よくわからないままに手術を受けているケースも少なからずあり、極端な場合、手術ではなく保存治療でよかったかもしれないというケースもある」(山田医師)

 トミー・ジョン手術の後、再びマウンドに立って全力投球ができるまでの平均期間は、アメリカで約16カ月半だ。

「移植した靭帯は、いったん血流がなくなってしまうので、最初はとても弱いんです。約4カ月経つまでは弱くなる一方。そこからようやく血流が出てきて、今度は強くなり始める。スローイング再開も、やはり4カ月経ってからです」(同)

 山田医師は、こうしたことを患者に詳しく伝えるという。

「まず自分の体に起こっていることをしっかり意識してほしいからです。医師にやってもらうだけの受け身の治療では、本人の治癒力も高まらない。なぜその段階でこういうリハビリをやるのか、理由を知った上で取り組んでもらいたいのです」(同)

モデルケースでは年収600万円で自己負担12万円

 実はトミー・ジョン手術の費用は、「選手生命を賭けた手術」としては、それほど高額ではないらしい。

「日本は、国民皆保険で保険が手厚く、トミー・ジョン手術もその後のリハビリも保険適用なので、手術を比較的安価に受けられるという事情もあります」(山田医師)

 亀田総合病院でのモデルケースを算出してもらうと、患者の所得が年間210万円から600万円の場合、手術と3泊4日の入院(一般病棟の場合)で保険適用後の患者本人支払額はおよそ12万円だという。

 山田医師は、トミー・ジョン手術が「多くの選手を救ってきた有効な治療法」であると認める一方、マウンド復帰率は100%ではないことなどを説明し、あくまでも「最後の切り札」だと強調する。

「合併症(神経症状、可動域が落ちるなど)のリスクもあり、復帰までに1年以上かかることも珍しくなく、時間と努力が必要になる」(同)

 だからこそ、特に高校球児や少年少女に対しては、「手術を選ばずに済む道があるなら、それを大切にしよう」と呼びかける。安易に「肘が壊れても手術すればいい」と考えるのではなく、あくまで肘を壊さないことが大事という考えだ。

「甲子園の先の野球人生」を考えてほしい

 とはいえ、トミー・ジョン氏が1974年に世界で初めてこの手術を受けてから半世紀、肘にメスをいれる機会は、アマチュアや若年層にも確実に広まっている。ある甲子園常連校では、1年生ピッチャーの半数が高校入学前に手術を経験済みという年もあったと聞く。

 山田医師のクリニックを訪れる選手の中には、「そのあともう二度とプレーできなくても、甲子園でプレーできればそれでいいので、甲子園大会が終わるまで野球ができるようにしてください」と懇願する高校生も少なくないという。

「それはそれで、彼らの選択なので、その気持ちを尊重して、手術などではなく保存治療で甲子園までもたせるようにしてやることもよくあります。ただ、素質のあるすべての選手に『甲子園で野球人生は終わりでいい』と思ってほしくもない。そのあたりは、じっくり話を聞いて、『その先の野球人生も考えようよ』と話し、無理なプレー継続を止めることもあります」(山田医師)

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 新潮QUEでの堤氏の短期集中連載【甲子園球児でも増加 野球ドクターが解説する「トミー・ジョン手術」神話と現実】では、初めて手術室でトミー・ジョン手術を密着取材したレポートに加えて、手術成功率や競技復帰率などのデータ、人工靭帯を使った最新の治療法の現状、東北楽天ゴールデンイーグルスの蒔田大毅コンディショニング部長へのインタビューも詳述している。

デイリー新潮編集部

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