「聖路加」「虎の門」を退けて北海道の地域病院が“働きたい病院”第1位に……「手稲渓仁会病院」が全国の医師から支持を受ける理由

ライフ

  • ブックマーク

 時間外労働の上限規制やハラスメント防止措置の義務化など、医療現場においても働く環境の整備が進んでいるが、慢性的な人手不足を背景に、医師の労働環境はいまだに多くの課題を抱えている。

 そんな中、医師たちの注目の的となっているのが、札幌市郊外の手稲区にある「手稲渓仁会病院」だ。同院は、医療従事者向けの日本最大級の情報サイト『m3.com』が発表する「医師が選ぶ『働きたい病院』TOP200」2025年版で1位に輝いている。

 同院には北海道のみならず全国から研修医たちが集まる。約40年前〈畑の中〉に突如として設立された中小病院は、いかにして全国の医師に支持されるに至ったのか。同院院長の古田康氏にその秘訣を聞いた。(取材・構成:会田晶子/ライター)

〈2026年8月29日に「新潮QUE」で配信した記事をもとに再構成しました〉

***

「先見・先取・先進」と「卒後教育の充実」

 札幌郊外の手稲区に位置する手稲渓仁会病院は、1987年、高度急性期医療を提供し、地域医療の中核を担う病院として創設された。開院当初から、創設者のもとで「患者主体の医療に徹する」「地域に開かれた病院を目指す」「高度な医療をわかりやすく提供する」「学習機会の積極的活用による前向きのチーム医療を実践する」というビジョンを掲げ、理想の病院づくりを実践してきた。同院院長の古田康氏は、その基本姿勢を「先見・先取・先進」と「卒後教育の充実」と表現する。

「当院は畑の中に突如できた200床の小さな病院でしたが、将来を見据え、新しいことを先取りする姿勢を貫きながら、660床の大規模病院へと発展してきました。その間に、2001年に国内で先駆けて導入した北米式初期臨床研修、2005年のドクターヘリの北海道での初導入、2006年のDPC(診断群分類別包括評価)対象病院指定など、先進的な取り組みをさまざまに実践してきました。ロボットアームを用いたダビンチ手術、TAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)も、当院が北海道初導入です」(古田氏)

 同院が、新たな医療技術や医療システムを先進的に取り入れられる理由として、古田氏は「密な横のつながり」と「新しいことに手を挙げやすい組織文化」を挙げる。新しい試みに対しては、速やかに院内にチームが立ち上がり、試行錯誤して改善しながら取り入れていくのだという。

 縦割り構造の強い大学病院等に比べて、小規模な民間病院から発展した同院は、横の連携を取りやすい構造がある。加えて、創設当初から続く「卒後教育の充実」が、同院の組織文化の醸成に大きく貢献してきたのだ。

海外協力大学での研修プログラム

 古田氏は、同院の卒後教育において、2001年に米国やカナダの臨床研修をモデルとした北米式初期臨床研修を取り入れたことが、大きな転機だったと分析する。日本で北米式の初期臨床研修制度が正式に開始されたのは2004年であることからも、これが非常に先進的な取り組みだったことが分かる。

「当院は創設時から、卒後教育を充実させることで、北海道だけでなく全国から優秀な研修医を集めようとしてきました。その施策の1つが、北米式初期臨床研修の導入です。おかげで全国各地から異なるバックグラウンドを持つ若い人材が集まるようになり、多様な人材を受け入れて育てる文化が促進されました。私たちは“人財”と呼んでいますが、当然、その育成には費用も時間もかかります。しかし、あえて、ここに継続して大きく投資してきたのです」(古田氏)
 
 同院の初期臨床研修は、当初はピッツバーグ大学と提携し、1年から2年のスパンで同大学から医師を招聘して研修医を指導するものだった。2018年に専門医資格取得のための研修等を義務化した新専門医制度が始まったため、これに合わせて研修期間を3年から2年に変えたり、コロナ禍による休止をきっかけに連携を見直し、2022年からテキサス大学(UTMB)と新たに協定を結んだりと、柔軟に形を変えながら続けてきた。

 現在は、2週間から4週間おきに派遣されるテキサス大学の医師が常時院内にいて、同院の研修医が直接英語で臨床教育を受けられるほか、研修2年目の医師が約1カ月間、テキサス大学をはじめとする海外協力大学で研修を受けるプログラムになっている。

「以前に比べて短いサイクルで交流することで、活気と好循環が生まれています。日本側の研修医が米国の最新医療を経験できるのはもちろん、テキサス大学の医師も消化器や内視鏡など日本に強みのある領域を見学していくなど、Win-Winの関係ができています」(古田氏)

 一方、専攻医においては、さまざまな国内の病院を1年、3カ月、6カ月などのスパンでローテーションし、同院に戻ってくるというサイクルがある。これに関しても、分野に応じてさまざまな提携先があることで、人的交流が活性化するのだという。

 さらに、上述のような初期臨床研修を始めて25年経った現在、同研修の出身者が、全国の病院や大学で活躍した後に戻ってくるという循環も生まれている。現在のリウマチ科、内分泌内科のトップ、食道疾患センター長など、同院の中核を担う人材が初期臨床研修から育っている。

 こうした好循環から、多様な人材を受け入れて教育するための機運が生まれ、「先見・先取・先進」を可能にする組織文化を促進してきたということだ。

***

「新潮QUE」にて公開中の関連記事【なぜ北海道の地域病院が“働きたい病院”第1位なのか――「手稲渓仁会病院」が全国の医師から支持を受ける理由】では、同院が高い病床稼働率を維持できる理由や、初期研修出身者に戻ってきてもらうための取り組みなどについて詳述している。

デイリー新潮編集部

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。