「万年4位」だった伊藤忠商事はなぜ「トップ商社」になれたのか カリスマ会長の知られざる素顔と人心掌握術 「海外の駐在員に魚沼産コシヒカリを渡すと、彼らは涙を流して喜ぶ」
「この1年だけでー、伊藤忠の株、8万株買うたんですわ」
伊藤忠商事を三菱商事や三井物産に伍する規模にまで成長させた立役者が、岡藤正広会長(76)であることは疑いの余地がないだろう。彼はいかにして「万年4位」と言われた状況を脱することに成功したのか。最側近が見た「カリスマ会長」の実像と人心掌握術とは。
(2026年8月18日に「新潮QUE」で配信した記事をもとに再構成しました)
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「岡藤の一番の強みは、非常にベタで分かり易い人間であること。そこに尽きると思います。経営の真髄を、誰もが分かる言葉で表現して社員をついて来させる。その能力が突出しているのです」
そう語るのは、伊藤忠の元副社長執行役員CAOで現在は顧問を務める小林文彦氏。
岡藤氏は自社の株価にも並々ならぬこだわりを持っている。小林氏がその一端を目撃したのは14年1月6日、その年の仕事始めの日だった。
「その日の昼、役員経験者のOBが企画・運営する『新年互礼会』が社内であって、伊藤忠を支えたかつての重鎮が勢ぞろいしていました。90近いOBもたくさんいました。そこで例年、岡藤は『今年も皆さんのお元気そうな顔を見られて嬉しいです。来年もまたお元気な顔を見せてくださいよ』といった挨拶をするのですが……」(同)
その年の挨拶は違った。100人ほどの元重鎮が居並ぶ前で岡藤氏は、
「わしー、この1年だけでー、伊藤忠の株、8万株買うたんですわ……」
とぼやくように切り出した。何の話が始まるのかと静まり返る会場。
「8万株もでっせ……もちろん合法的に買うてまっせ……だけどねぇ、8万株買うてもねぇ、売られへんのですわ……。わしが社長やってる間は売られへん、会長なっても売られへん、会長辞めたって……売られへんのですわ。要するにね、わしの目が黒いうちは売られへん。……でもな、わし……8万株、買うたんですわ。わしが何を言いたいかと言いますとな……わしは伊藤忠に命かけとるんですわ」
小林氏はこう語る。
「岡藤が挨拶を終えた瞬間、会場の元重鎮たちから『おかふじー! おかふじ、頑張れーっ!』という喝采が飛び交いました。彼は一瞬でOBたちの心を鷲掴みにしてしまったのです」
「駐在員たちは涙を流して喜ぶ」
「伊藤忠には子会社も含めておよそ100カ所の拠点があるのですが、その中にはどうしても政情や治安、住環境が悪い場所もあります。岡藤はそういった場所にいる駐在員のことも日頃から心配しています。『彼らはどうやって生活してるん?』『病気になったらどうするんや?』と常々僕らに聞いてくる。『その人たちを慰労したい』ともよく言っています」(小林氏)
とはいえ、日程やセキュリティーの関係上、全ての場所に岡藤氏自らが赴いて慰労するのは不可能だ。
「僕はよく、岡藤の代理で、世界中の駐在地に慰労に行くのですが、岡藤は『世界一大変なところに駐在している社員には、世界一美味いコメを食わさな』と言って、魚沼産コシヒカリの新米をスーツケースにパンパンに詰めて持たせるんです。日本の代表的なお菓子の一つである『とらやの羊羹』と一緒に」(同)
大きな額縁に入った岡藤氏の写真も渡すという。
「それには彼の直筆で『商社3冠を目指して頑張りましょう』などと、その時々の目標が大きく書かれているのです。僕が現地で『岡藤さんはみなさんのことをすごく気にしています。これは岡藤さんからです。ここに来たいけれど来られない岡藤さんが来たと思ってください』といって新米などの差し入れを渡すと、厳しい環境で暮らす駐在員たちは涙を流して喜びます」(同)
「新潮QUE」にて公開中の関連記事【「伊藤忠商事」を「トップ商社」に成長させた「岡藤正広会長」の人心掌握術】では、伊藤忠躍進の理由などについてより詳しく報じている。


