「豊かな子供は自衛隊とかに入らない」を単なる「一時の炎上」で終わらせてはいけない

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「経済的に厳しい子供が自衛隊に入る」「豊かな子供は自衛隊とかに入らない」――こんな立憲民主党議員の発言が大いに物議を醸したのは6月のこと。発言そのものは軽率、差別的と言われても仕方がなかったため、本人もすぐに撤回して謝罪をした。

 批判が集まった背景には、単なる失言とは思えない面があったからだ。日教組出身という議員の経歴を見れば、もともと自衛隊という職業に対して敬意を持っていないのでは、という疑念を持つ人が少なからずいた。そういう人からすれば、自衛隊への蔑視が口を滑らせて出ただけだ、ということになる。

 一方で、表現には大いに問題があったが、言及しているポイント、すなわち経済的な理由で自衛隊に入る者が多いのではないか、という点については冷静に議論を深めてもいいのではないか、という指摘もある。

 自身、自衛官の子として育ったライターの梶原麻衣子氏もその一人だ。梶原氏は情報・教養サブスク「新潮QUE」に寄稿した記事【「豊かな子供は自衛隊とか入らない」――問題発言を単なる炎上案件にしないための冷静な視点とは】の中で、これを機に自衛隊員の待遇や採用について考えるべきだ、と説く。以下、その一部を抜粋してみよう。

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教え子が苦しんでいる

「経済的徴兵制」という言葉に注目が集まったのは、立憲民主党の古賀千景参院議員の発言が発端だった。参院決算委員会(6月15日)で「教え子が多く自衛隊にいる。苦しんでいる。自衛隊に行く子供たちって、経済的に厳しい子供たちが行くんですよ。豊かな子供たちは自衛隊とかなりませんよ」と述べた一件だ。

 古賀議員はその場で小泉防衛大臣から批判され、すぐに訂正。その後もXで謝罪したが、発言が報道されると非難の声が上がり、自衛隊出身の地方議員らが連名で抗議文を公表。元自衛官で外務副大臣を務めた経験のある佐藤正久氏も、ネット番組で「自衛官は貧乏人の職業と見下す差別発言」と厳しく批判するなど、反発が広がった。

 その一方で、「経済的に厳しい環境にある若者が自衛隊に行くのも事実」との指摘もあり、「経済的徴兵制」との言葉も浮上することになった。この言葉から古賀議員の発言につながる職業観を連想する人は少なくないだろう。つまり「貧乏な若者がやむにやまれぬ事情から自衛隊に入っている」というものだ。それゆえ、感情的な反発も買いやすい。結果として冷静な議論を妨げるおそれがある。

 たしかに古賀氏の「自衛隊には経済的に厳しい子供が行く」「豊かな子供たちは自衛隊とか行かない」との決めつけは許しがたい。だが、反論として「貧しいから、経済的に苦しいから、とそんな理由で自衛隊を選ぶ人はいない。失礼だ」と言い切ってしまえば、それもまた問題だろう。経済的に厳しい状況にある若者が、就職先として自衛隊を選ぶケースは実際にあるからだ。

 特に2年ごとに任期満了となる任期制自衛官の場合は、通年募集・随時採用であり、入隊が決まれば営内に居住することになるため、衣食住がすぐに確保できる。さらに任期満了ごとに満了金が得られることもあって、自活や自立の過程で一時的に自衛隊に入隊するケースは存在する。

やす子さんは“徴兵”されたのか

 表向きの志望理由がどうあれ、奨学金の返済のためというニーズや、DVその他で実家の環境が悪くすぐに家を出たい、なるべく早く自立したいというニーズにも応えられるのが、自衛隊という職場である。元自衛官タレントとして著名なやす子さんもこうしたケースに該当するようだ。

 彼女は両親が2歳の時に離婚。母子家庭となり、経済的な事情から児童養護施設で育ち、18歳で自衛隊に入隊している。

 彼女にとって、自衛隊は自立のための一つの過程であり、セーフティネットの役割を果たしたと言えるだろう。

 このようにやす子さんは経済的理由から自衛隊を選んだわけだが、芸人になり、迷彩服でテレビに登場し売れっ子になったことで、結果的に自衛隊の広報においては誰よりも高い功績を残している。それゆえに2025年3月には幕僚長表彰まで受けている。

 その後も予備自衛官の訓練に参加し続け、防災士の資格も取得するなど「元自衛官」としての能力をいかんなく発揮し続けているやす子さんの存在は、「入隊理由が経済的なものか、愛国心や任務への熱意か」といった問いを超越していると言えるだろう。どんな理由からの入隊であろうと、自立や成長の場として自衛隊が機能し、結果として国防や国民を守る意識を持ちえたのだとすれば素晴らしいことで、何ら否定されるべきものではない。

 本人の事情から選択肢が豊富だったとは言えないものの、やす子さんは自ら自衛隊を選び、採用試験を受けて相応の倍率を突破して入隊しており(セーフティネット的ではあっても誰でも必ず入隊できるわけではない)、そこに強制性は存在しない。

 このようなやす子さんのケースも「経済的徴兵制」に該当するのだろうか。

「経済的徴兵制」という文言の一人歩きによって起こる問題の一つは、まさに陰謀論めいた言説を招き入れることである。「政府は自衛官の数を確保するために、若者が経済的に苦しい状況に留め置かれ、奨学金の問題もあえて解消しないようにしているのだ!」といったたぐいのものだ。これは当然ながら主従あるいは時系列が逆転した見方である。

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 よほど恵まれた人でない限り、職業を選ぶ際に経済的な理由が無いことは考えられない。自衛隊について論じる場合のみ「徴兵制」といった言葉を選ぶことは、冷静で建設的な議論を妨げかねない――これが梶原氏の指摘である。また、梶原氏は、次のように述べている。

「自衛隊の人員確保のあるべき姿を考えるには、まず社会が自衛隊をどのような組織であるべきと考えるかの議論をしなければならない。何より、日本社会における自衛隊の任務に対する理解と敬意が不可欠であることは言うまでもない」

 件の議員は問題発言の撤回、謝罪の後、自身のHPやXでの発信をパッタリと止めてしまっている。しかし単に「炎上」事案として済ませるのでは責任を果たしたことにはならないだろう。教え子が「苦しんでいる」のならば救うために動いたほうがいい。自衛隊員にとって、そして国の安全保障にとってプラスとなるような議論をする姿勢が求められるのではないだろうか。

 梶原麻衣子氏の記事は、新潮QUE掲載の【「豊かな子供は自衛隊とか入らない」――問題発言を単なる炎上案件にしないための冷静な視点とは】で読むことができる。

梶原麻衣子(かじわら・まいこ) 
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。中央大学文学部史学科東洋史学専攻卒業。IT企業勤務後、出版社に入社し、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。インタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の企画・編集・構成などを手掛ける。

デイリー新潮編集部

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