たった1球で勝利投手に…ソフトバンク鈴木豪太だけじゃない 球史に残る“珍白星”のドラマ

スポーツ 野球

  • ブックマーク

あんなの初勝利なんて言わん

 敗戦投手になっても不思議ではなかったのに、思いがけない幸運から史上初のプロ初登板での1球勝利を記録したのが、楽天・横山貴明である。

 2014年8月30日のソフトバンク戦、1対1の7回2死二塁の場面で、リリーフとしてプロ初登板を果たした横山だったが、今宮健太に初球の140キロ直球を中前に打たれ、1点を勝ち越されてしまう。

 ところが、二塁を狙った今宮が走塁死したため、スリーアウトチェンジになった。

 火消しに失敗し、勝ち越し点を許した横山は、ベンチで肩を落としていた。だが、ここから思いもよらない“逆転猛打ショー”が幕を開ける。

 1死から西田哲朗が四球を選び、松井稼頭央の左越え二塁打で同点。さらに藤田一也、岡島豪郎の連打で1死満塁とチャンスを広げたあと、ジョーンズの押し出し四球で逆転し、銀次の右越え2点タイムリー二塁打など、打者13人の猛攻で一挙8点のビッグイニングとなった。

 試合は9対4で楽天が勝ち、横山は1球勝利投手に。「勝ちがついたのはすごくうれしいですけど、打たれてしまったので、それ以上に恥ずかしいです」と複雑な心境を口にした。

 星野仙一監督も「あんなの初勝利なんて言わん」とバッサリ切り捨てたが、「何か持っているんだな。打たれて初勝利だなんて運のいい奴だな」と、キツネにつままれたような表情だった。

史上初の打者ゼロ勝利

 最後は番外編。投球数は2球ながら、史上初の打者ゼロ勝利を記録したのが、ロッテ・小林雅英である。

 2000年7月2日のオリックス戦、ロッテは3対4の8回2死一塁で、勝ち越し点を許した藤田宗一に代わって小林が3番手でマウンドに上がった。ところが、小林は2球目に暴投を犯してしまう。

 これを見た一塁走者・イチローは一気に三塁を狙ったが、欲張り過ぎたのがアダとなり、タッチアウト。スリーアウトチェンジになった。

 すると9回表、ロッテは大塚明の2点タイムリー二塁打で5対4と逆転に成功。オリックスの最後の攻撃を守護神・ウォーレンがゼロで抑えて逃げ切った。

 この結果、打者ゼロで1死を取った小林が、まさかの勝利投手に。この時点で1球勝利投手は11人、0球セーブは5人が記録していたが、打者数ゼロでの勝利投手は史上初の珍事だった。

 「勝ち逃げ投手とでも呼んでくださいよ。今年の運を使い果たしちゃった」とおどける小林だったが、同年は65試合に登板し、11勝6敗14セーブとプロ2年目で大きく飛躍した。

 1球だけで勝つ投手もいれば、打者ゼロで勝つ投手もいる。記録だけを見れば珍事でも、その裏には試合展開、走塁ミス、味方の逆転劇、そして少しばかりの運が絡み合っている。

 鈴木豪太の1球プロ初勝利も、ただの珍記録で終わるとは限らない。小林雅英の“打者ゼロ勝利”が、のちの「幕張の防波堤」への布石になったように、思いがけない白星が飛躍のきっかけになることもある。野球は本当に、何がどう転ぶかわからない。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。