NHK、「Netflix配信」に賛否 「受信料」で制作された番組を「巨大な営利企業」に提供するワケ

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大きな方針転換

 しかし、いまやその「国民的」という前提自体が揺らいでいる。テレビの前に家族が集まり、同じ時間に同じドラマを見るという視聴習慣は、もはや一般的なものではない。若い世代にとって、番組は放送局単位で選ぶものではなく、Netflix、TVer、YouTube、Amazon Prime Videoなどのプラットフォーム上で発見するものである。NHKにとって最大の問題は「良質な番組を作っていても、そこに人が来ない」ということだ。

 その意味で、今回のNetflix配信は、NHKが自分たちの居場所に視聴者を呼び戻そうとするのではなく、視聴者がすでにいる場所へ自分たちのコンテンツを出していくという戦略だ。これは大きな方針転換である。従来のNHKは一貫して「届ける側」の論理で動いてきた。

 だが、配信中心の今の時代には、どれほど良質な番組でも見つけてもらえなければ存在しないのと同じである。Netflixで世界配信するということは、単に海外に売るという話ではない。NHKの番組を、日本の視聴者を含むグローバルな市場の流通網に乗せるということなのだ。

 NHK側の狙いは、大きく分けて3つある。

 第一に、過去の番組の再利用である。大河や朝ドラは制作費も手間もかかった巨大なアーカイブ資産である。放送終了後に国内の再放送やNHKオンデマンドだけで回すよりも、世界配信によって新たな視聴価値を生む方が合理的である。

 第二に、日本文化のソフトパワー化である。大河ドラマは歴史、朝ドラは生活文化、ドラマ10は現代社会の問題意識を伝える。これらはアニメや漫画とは違う形で、日本の社会像を海外に届けるメディアになり得る。

 第三に、NHK自身のブランドの再定義である。NHKは「国内の公共放送」から、「日本発の公共メディア・コンテンツホルダー」へと自らを拡張しようとしている。

 NHKのNetflix配信は、公共放送の商業化というよりも、公共放送が配信時代に自らの公共性のあり方をアップデートしようとする壮大な実験である。閉じた国内制度の中で守られてきたNHKのコンテンツが、世界市場の中でどれだけ通用するのか。今回のNetflix配信は、NHKにとって攻めの一手であると同時に、公共放送としての説明責任がこれまで以上に問われる重大な転換点なのだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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