日本の衰退に直結! パスポート保有率の低下が「ゆゆしき事態」である具体的な事情

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日本人にはノーベル賞は獲れなくなる

 それでも留学できている学生はいい。上記の2人も、数年前とくらべて留学を志向する人自体が激減していると語っていた。激しい円安を受け、経済的な理由で留学をあきらめざるをえない学生が急増しているのだ。それはすなわち、世界に伍する人材が育たないことを意味する。

 筆者は音楽評論を仕事の1つにしているので、音楽の話題を出すが、たとえば、滝廉太郎や山田耕筰。明治時代に生まれた彼らが作曲した歌は「日本歌曲」と呼ばれるが、それは正確な表現ではない。それらの曲は、彼らがヨーロッパに留学して学んだ、ヨーロッパの音楽語法に則って作曲されたものだ。こうした例は、もちろん芸術にとどまらない。

 学術の分野も同様であり、日本人のノーベル賞受賞者のなかには、海外留学を経験している人が少なくない。留学先ですぐれた指導者と出会ったり、研究を進めるためのすぐれた環境を得たりしたことが、のちの偉業につながっている。また、ノーベル賞を受賞できるのは、いうまでもなくごく少数だが、多くの若者が果敢に「海外雄飛」して学べる環境があってはじめて、すなわち、大きな分母があって、その一部がノーベル賞に到達している。

 現在のように留学したくてもできず、結果として、パスポート保有率がどんどん下がるような状況が続けば、今後、ノーベル賞など日本人とは無縁になってしまうだろう。

日本の停滞に直結する

 しかし、現在、勘違いしやすい状況にあるともいえる。サッカーW杯のメンバー26人が発表になったが、そのうち23名を海外組が占めた。野球のメジャーリーグを見ても、大谷翔平のみならず、今年から挑戦している岡本和真も村上宗隆も、めざましい活躍が話題になっている。

 日本人の世界での活躍が、ある分野で目立つようになったのはまちがいない。だが、サッカーや野球のようなメジャーなスポーツにおける有名選手たちには、高い報酬が用意されるので、円安の影響は大きくない。

 海外で学びたい、または、海外で学んだほうがよさそうだ、というときに、留学しやすい環境が整っているかどうかが問題である。メジャーなスポーツだけでなく、あらゆる分野において、留学したいと思った人にとって、ハードルが低く抑えられていることが望ましいが、現状はそうなっていない。世界中で物価が高騰している折から、1ドル=158円台、1ユーロ=184円台では、留学を断念するケースが少なからず出てくるし、最初から留学など視野に入らないケースは、さらに多くなる。

 だが、それは日本の停滞に直結し、「パスポートなどなくてもなんの不便もない」といっている人も、結局は不利益をこうむることになる。

 海外に行きたい人も、行ったほうがいい人も、なかなか行けない状況だから、パスポート保有率が低いのだろう。だったら、旅券発行の手数料を引き下げるのも大事だが、それ以上に円安の是正が大事だということになる。それが将来の国力に直結するからである。

 また、行きたくない人に海外行きを強制する話ではない、と述べたが、行けるなら行ったほうがいい。海外に行くと、日本の、そして日本人の常識が、必ずしも世界の常識ではないことに気づかされる。その「気づき」の積み重ねで日本は豊かになってきた。なるべくなら一人一人が気づいたほうがいい、ということは強調しておきたい。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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