デジタル写真技術の粋を結集し、肉眼では見られない「マイクロプレゼンス」を捉える――「養老孟司と小檜山賢二の虫展」番外編

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超高精細な昆虫3Dモデルの開発にも挑戦

「虫展」の会場では、この地道な作業によって実物の何百倍にも拡大された昆虫たちの姿をじっくり観察することができる。中には人間よりも大きなサイズのものもあって迫力満点だ。

 ただ、現在はレンズの焦点を自在に変化させる「フォーカスブラケット」機能が備わったカメラも多く、全体にピントが合った画像を自動で作成できるようになっている。そこで小檜山氏が今、「もっとおもしろいことを」とチャレンジ中なのが「3Dガウシアンスプラッティング(3D Gaussian Splatting)」という新技法である。これは一体の昆虫を様々な角度から捉えた約3000枚の深度合成写真から「点群」のデータを抽出し、それらを組み合わせて高精細な3Dモデルを作り出す技法。小檜山氏は「虫展」に合わせ、数十年前から蓄積してきた自らの昆虫写真のデータを生かし、技術者と連携して短時間で十数種類の3Dガウシアンスプラッティング作品を完成させた。会場の一角で超高精細な昆虫の3Dモデルが回転する動画を見ることができるのでぜひチェックしてみてほしい。この3Dモデル、何がすごいかというと、

「見る角度や光の当たり具合で昆虫の体表の色合いや光具合は変化するが、3Dガウシアンスプラッティングによって、その複雑な変化を忠実に表現することができるようになりました。もう1つ驚異的なのは、これまでどんな技術でも難しかった昆虫の体毛や微妙な質感までも3Dガウシアンスプラッティングなら自在に表現できること。まさに革命的です」

 この技術はまだ開発途上だが、小檜山氏は

「いずれは3Dモデルを実際の虫のように動かしてみたい」

 と少年のように目を輝かせる。今後もこれまでにない昆虫写真・動画の世界を見せてくれそうだ。最後に、驚きと感動に満ちた「虫展」の鑑賞のポイントを小檜山氏自身に聞いてみた。

「虫展ではいわゆる“解説”を設けず、作品には基本情報として和名、学名、そして実物大写真のみを設置しました。とにかく余計な情報と先入観を捨ててじーっと昆虫たちの姿形を見てほしいからです。普段、昆虫に限らず何か一つのものをそんなふうに眺めたことがある人はほとんどいないでしょう。そうやって眺めると必ず何らかの発見があるはずです。そして養老さん曰く『発見した自分はもうそのままの自分とは変わっている』。この展覧会を通して、多くの人に自分の中の何かが変わる体験をしてほしいですね」

 小檜山氏の写真と写真の間や会場の各所に配された養老氏の言葉にも要注目である。

「まずは養老さんの言葉を一つひとつ読みながら写真を見て回ってみて、全て見終わったら再度入口に戻り、今度は特に気になった作品をじっくり見ることに集中しながら会場を回る、といった具合に2回鑑賞するのがオススメです」

「養老孟司と小檜山賢二の虫展」は東京都写真美術館で5月24日まで開催後、夏には豊田市立博物館、秋には岡山県立美術館ほかその後も全国各地を巡回予定。記事の後編では、養老氏の側から見た「虫展」の魅力にスポットを当てる。

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