杉村春子、加賀まりこ、淡島千景…名女優が“母親役”に 「昭和の子どもたち」を描いた名作5選【こどもの日の映画案内】

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一緒にいることが幸せ

〇「にあんちゃん」(1959年)

 昭和28(1953)年。前年にサンフランシスコ平和条約が発効し、主権回復したばかりの日本。まだ多くの人たちが貧困に喘いでいた。

 佐賀県の鶴の鼻炭鉱。安本家の父親が亡くなり4人の子どもたちが残された。不況の波が押し寄せる炭鉱では、長男の喜一(長門裕之)も解雇される。喜一と長女の良子(松尾嘉代)は生活費のために下の2人をおいて炭鉱を出ることに。

 原作は在日コリアンの安本未子の日記を書籍化したもので、ベストセラーとなり韓国でも映画化された。監督は今村昌平。この後「豚と軍艦」(1961年)、「にっぽん昆虫記」(1963年)でも、戦後日本の現実を描いていく。

 物語は次女の未子(前田曉子)の視点で描かれる。「にあんちゃん」とは次男の高一(沖村武)のことだ。高一と未子は、学校に弁当も持っていけないので昼休みは校庭で過ごす。やがて、預けられた家も居づらくなり夜逃げをする。

 高一を演じる沖村の演技に注目したい。どんな逆境にも決して音を上げないたくましさと、家族を大切に思う少年だ。高一は生活費を稼ぐために、東京に行き月島にある自転車屋に働き口を求めるが、すぐに警察に通報されて送り返される。東唐津の駅には兄弟たちが迎えに来ていた。

 高一の願いは、兄弟4人が一緒に住むことだ。洋服が破れていてもいい、満足に食べられなくてもいい。家族が一緒にいることが大切なのだ。今も昔も、子どもたちの願いは変わらない。

愛を求めて

〇「黄色いからす」(1957年)

 父の愛を求める小学生を描いた五所平之助監督作品。当時、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞を受賞している。

 父・一郎(伊藤雄之助)が、母・マチ子(淡島千景)と息子・清(設楽幸嗣)のところに15年ぶりに中国から復員してきた。戦争の影をまだ引きずっている頃だ。一郎はかつての勤務先に復帰したが、思うような仕事をさせてもらえずに悩む。そんな父に甘えたかった清だが、相手にしてもらえない。

 やがて赤ん坊が生まれ夢中になる両親。寂しく思う清は、怪我をしたカラスの面倒をこっそりみるようになった。弟や妹ができた時の、子どもの複雑な気持ちは変わらない。

 大晦日の日、清はうっかりして赤ん坊に怪我をさせて父にひどく叱られる。そして隠していたカラスも放されてしまい、清は絶望して家を出た。何をしても空回りして誤解される、そんな清の姿が愛おしい。

 傷心の清を我が子のように面倒を見るのは、隣家の鎌倉彫り店を経営する雪子(田中絹代)だ。そして学校の担任・靖子先生(久我美子)も、悩んでいる清を心配してオルゴールを贈り励ます。

 この2人の愛情の深さがとても胸に染みる。今ではどうなのだろう。少なくともこの作品には、子どもは社会全体で育てるのだという温かさが込められている。

 やがて清が無事に戻ると、父は涙を流して初めて力強く抱きしめるのだ。元旦の青空に父と2人で凧を揚げる清は、眩しいほどの笑顔を見せていた。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部

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