世界屈指のレースで完勝! トレイルランナー「秋山穂乃果」が明かした「報道カメラマン」「山岳救助隊」を経てトップアスリートになるまで
挑戦よりも安全を常に意識する
――それでも、山岳遭難救助隊の仕事から受けた影響は大きいのではないでしょうか。
秋山:ものすごく影響を受けました。挑戦するか、安全牌をとるかというバランスを重視するようになりましたね。基本的に、トレイルランナーは挑戦する性格の方が少なくありません。できるだけ荷物を軽量にして、体力ギリギリまで走ろうとするのです。
でも私は、自分が滑落したときを想像してしまいます。だから、重くなってもいいので安全に、そして危険を感じたら引き返そう、という気持ちがある。最悪の現場を何件も見てきたからこそ、感じることだと思います。
――実際のコースで、恐怖を感じることはありますか。
秋山:もちろん怖いですよ。スペインの大会で、鎖もない瓦礫場のコースを走る機会がありました。私は、そういったところで人が滑落した現場を見ているので、怖くて、試走のときは引き返してしまいました。
もし救助隊の時に行ったら、ロープを出せと言われるような現場です。そんなとき、いつも思い出すのは、滑落したときに救助隊の上司に怒られないか、ということですね。
走る前に自身の装備を考えるのも重要です。いわゆる必携品は決まっているのですが、何をプラスし、何を削るかは自分で考えるんですよ。標高の高いコースでは防寒着を持てば安心ですが、そのぶん重量があるので体に負荷がかかります。
一方で、防寒着を持参しなかった選手は低体温に陥ってしまうことがあるのです。なので、装備はかなり気を使って選びます。大事なことは命が一番であるということ。最低限の安全を守れているかと確認しながら、競技に取り組んでいます。
恥ずかしさをばねに順位を上げる
――秋山さんが初めて大会に出場したのは、2019年に開催された「2019 World Championships」です。結果は女子40位でした。
秋山:警察学校に在籍していたときに出場した大会です。当時はプロになりたいという意識はなく、純粋に海外の山を走りたいという思いがありました。なぜ、この大会に出場したのかというと、警察官の立場で出られるものがこれしかなかったためです。
なかなか、警察官は長期休暇が取れないのですが、世界選手権であれば取得しやすいんですよ。だからこそ、いきなり世界の大会に出ることになりました。大会が終わると、組織の中で順位を常に聞かれました。さすがに40位では上司に報告するのが恥ずかしかったので、頑張っていくモチベーションに繋がったのではないかと思います。
――練習はどのように行っていましたか。
秋山:交番勤務が終わった後や休日に近くの山を走りながら訓練し、スキマ時間も有効活用しました。例えば、デスクワークのときは職場が10階だったので、トイレ休憩の時は敢えて1階まで行き、階段を上り下りしましたね。
実は、プロの指導者についていただいたのは、昨年12月なんです。今は世界的にレベルが上がっているので、指導者のアドバイスを受けつつ科学的にトレーニングをしないと、世界には行けません。当時は、教本やビデオもほとんどありませんでしたから、練習のメニューを自分で考えるしかなかったのです。
――そうした試行錯誤が功を奏したのか、その後はめきめきと成績が上がっています。2022年に開催された「2021 World Mountain and Trail Running Championships」では、ロング女子14位と好成績を収めています。
秋山:世界選手権の枠組みができた最初の大会だったので、選手もみんな力が入っていました。タイで行われた猛暑の中でのレースでしたが、満足のいく結果が出せたのは良かったです。ただ、とても嬉しかった反面、もうちょっと上までいけたんじゃないかなとも思いました。
――トレイルランナーの経歴を見ると、陸上選手だったり、登山家だったりと、異なる経歴をもつ選手がいるのが興味深いです。それゆえ、選手によって得意不得意のコースが分かれるのではと思います。秋山さんはどんなコースが得意なのでしょうか。
秋山:選手にとっても得意不得意があると思います。ロード出身のランナーはテクニカルじゃないコースが好きな傾向があったり、山好きは岩場が得意だったりと、様々です。私が好きなのは山登りが続くコースで、特に岩場が得意ですが、逆にダウンヒルや平地は苦手ですね。
私はしっかりと累積標高がある、上りがきついコースでライバルに差をつけています。ただ、海外の大きな大会はコースの内容を選べませんから、あらゆるコースに対応できるよう、強化していく必要があります。
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