「あら、だらしない!」SNSどころか街中にも出没する「着物警察」の恐怖…文化と伝統を守りたい人たちが“着物離れ”を加速させる皮肉

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中古市場で着物の人気は著しく低い

 さて、着物警察が厳格に着付けのルールを定め、伝統的なるものを守ろうと躍起になる一方で、着物を着る人は減少傾向にある。博報堂生活総研が2024年に行った調査では、1年以内に和服(着物、ゆかたなど)を着たという人はわずか5.5%。1998年の段階でも13.3%しかいなかった。夏祭りや花火大会などの機会がなければ、着物(ゆかた含む)を着る機会はほとんどいないといえるだろう。

 そもそも町を歩いていても着物を着ている人など、滅多に見ない。卒業式シーズンの学生や成人式に参加する若者、観光地で観光客が着ている程度である。着物は日本の伝統的な衣装であるはずだが、実用的かつ普段着としてのファッションとしての地位は失われていると言っていい。

 着る人がそもそもいないため、質屋や買い取り業者などに先祖代々伝わる着物を持ち込んでも、二束三文で買い取られることが多い。査定を依頼したら、1着10円、もしくはグラム単位での引き取りを提案されたという話もある。とある買い取り業者が、このように話す。

「着物は並べていても売れないので、よほど質が高いものでなければ、高い値段は期待できません。そもそも古い着物の9割以上は、今でいうファストファッションみたいなレベルの代物。普通の人たちが普段使いしていた着物は量産品なので、買い取りは安くなります。人間国宝の作品など、特殊な条件があれば値段が付きますが、それでも買ったときよりははるかに安いため、がっかりする方も多いです。

 ではなぜ、着物を売ってくださいねと声高に主張するのか、不思議に思うかもしれませんね。正直、当店は着物そのものよりも、着物を片付けている際に副産物的に出てくる品物のほうを重視しています。着物を処分しようと片付けていると、ブローチやネックレスなどの金製品や金貨や銀貨などの古銭、高級腕時計が出てきたりしますからね。そうした品々も着物と一緒に持ち込まれるので、そこにメリットを感じています」

加賀友禅がパッチワークの材料に

 話が逸れてしまったが、着物の人気の低さが買い取り額に影響しているというのは、間違いなさそうだ。着物警察は着物を愛するのであれば、着物の人気が急激に落ち、二束三文で買い取られてしまっている現状を憂うべきではないだろうか。着物を着ている人を叱責したり、揚げ足を取ったりするのではなく、もっと楽しみ方を宣伝すべきではないだろうか。

 前出の買い取り業者は、大島紬や加賀友禅の生地がゴミ同然に扱われたり、パッチワークの端切れとして使われたりしているのを見て、唖然としたことがあるそうだ。

「私はパッチワークの趣味が悪いと言いたいわけではありません。ただ、当時は物凄く高価だった着物が着用されずに端切れになってしまうのは、あまりに悲しいですよ」

 なお、博物館にも「先祖代々の着物を引き取ってほしい」という依頼は来るそうだが、ほとんどの場合は断られる。すると、着物は行き場を失い、ゴミに出されてしまう。筆者も衣類ゴミの日に、美しい着物が山積みになっているのを見たことがあり、悲しい気持ちになってしまった。

 日本の文化財である着物の愛好家を増やし、着用する文化を守るためにも、着物警察はもう少し寛容になってほしいものだ。多彩な表現を受け入れることが文化を発展させ、より魅力的な存在にしていく。格式や型ばかりを過度に重んじはじめると、文化は衰退していくのである。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部

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