やっぱり不便…ワゴン販売が消えた「東海道新幹線」 利益最高&乗客最多なら乗客に還元してくれても

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過去最高の利益、最高の乗客数なのだから

 ところが、いまは状況がまったく違う。JR東海は今年2月2日、2026年3月期の連結純利益が対前年比10%増の5,020億円になる見通しだと発表した。これは従来の予想を220億円上回るものだった。売上高も7%増の1兆9,690億円へと、320億円ほど上方修正された。売上高は7年ぶり、純利益は2年連続で過去最高を記録することになり、その大きな理由は、観光需要の回復や(大阪・関西万博という特殊需要もあったが)、インバウンドの増加により、東海道新幹線の乗客数が増えたことだった。

 実際、乗客数は7年ぶりに過去最多を更新する見通しだ。3月25日の時点で、これまでピークだった2018年度を6%ほど上回っているという。東海道新幹線の乗客は、コロナ禍前にはビジネス需要が6割を占めていた。これがオンライン会議の普及などによって、減少したまま回復しないのは事実で、それを考えるに、車内販売の終了などの思い切った措置が必要だという判断に至ったのだろう。

 しかし、観光需要が予想を超えて拡大し、ビジネス客の減少分を埋めるばかりか、上回る状況になっている。要するに、いまやJR東海は、東海道新幹線のおかげで「ホクホク」の状況にあるのである。

 車内販売を終了するにあたって、約350台あったワゴンのうち、約50台が一般向けに1台10万円で販売され、多くは廃棄され、一部は別の業務に再利用されたという。すべてのワゴンが処分されたわけで、JR東海はこの時点で、ワゴン販売を再開する意志がなかったことがわかる。

 だが、すでに記したように、東海道新幹線はJR東海のドル箱に回帰し、予想を上回る利益を生み出している。この場合、車内販売をしても以前より売れない云々と、採算性を検討すべきだろうか。むしろ、大きな利益をもたらしてくれている乗客へのサービスとして、車内での飲食の提供のあり方を検討するべきではないだろうか。

乗客に還元してくれても

 ヨーロッパの高速鉄道は、多くの列車に車内販売がある。たとえば、日本のグリーン車に相当する車両では、飲み物と軽食が無料で配られる。ワゴン販売がなくても、ビュッフェに行けば飲み物や軽食を頼める。それらの目的は、ひとへに乗客へのサービスである。

 一方、JR東海が車内販売をやめたときの説明では、採算が合わないことが強調され、車内販売が乗客へのサービスだという意識が希薄だと感じられた。だが、百歩譲って、コロナ禍がようやく収束した局面での決定であれば、採算が優先されたのも致し方あるまい。しかし、いまや史上最多の人数が新幹線を利用し、会社に大きな利益をもたらしている。収益の一部を車内販売の再開というかたちで、乗客に還元してしかるべきではないのか。

 ワゴン販売の代わりがモバイルオーダーサービスだ、という説明もふざけている。サービスが提供されるのは16両編成のうち、たった3両のグリーン車だけで、しかもグリーン車は1両当たりの定員が普通車の100名程度に対して60名強と少ない。つまり、約1,500名の乗客のなかで、180~190名程度にだけ提供するサービスをもって代替だとするなど、東海道新幹線の収益を支えている普通車の乗客に、あまりにも失礼だろう。

 自分たちがコロナ禍で苦境にあえいでいるときは、「Go To キャンペーン」の恩恵に与り、税金で救済されることに甘んじていたはずだが、業績が回復してしまえばそんな恩はすっかり忘れて、乗客へのサービスは二の次という姿勢を貫くJR東海。利用者はもっと声を上げてもいいと思うのだが。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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