『虎に翼』スピンオフで見えた「よね」という人間の生きざま 「主人公を満身創痍に追い込むのは、良質なドラマの証」
女であるがゆえになめられたり、理不尽に尊厳や自由や仕事を奪われたりする。この社会で女が生きるには武器が必要。それが法律だった。朝ドラの名作「虎に翼」(2024年)で、主人公の佐田寅子(ともこ)と共に、法曹界を目指した女たちの一人・山田よねを描いたスピンオフ「山田轟(とどろき)法律事務所」。
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よねを演じたのは土居志央梨。伊藤沙莉が演じた寅子が、強烈に輝く光で人々を温める「太陽」だとすれば、よねは「月」だ。夜道で心細いときにさりげなく、でも確実に足元を照らしてくれるような。そんなよねの、本編では触れられなかった空白の数年間を描く。そもそも不遇な生い立ちだが、東京大空襲から弁護士になるまではさらに凄絶だった。
ワケありのよねを住み込みで雇ってくれた「カフェ燈台」マスターの増野(平山祐介)は空襲で瀕死の状態。よねは自分が店の外へ避難させたせいだと自責の念を抱えている。増野の看病と介護の傍ら、困っている人の法律相談を細々と請け負うも、収入はほぼない。一生懸命学んだ法律も、戦後の混沌と荒廃、犯罪と貧困が蔓延(はびこ)る世界ではあまりにも無力だ。町には戦争孤児と立ちんぼがあふれ、必死で商売をする朝鮮人(絃瀬〈いとせ〉聡一)一家に因縁をつけるヤクザがわが物顔で跋扈(ばっこ)。けんかや窃盗は日常、そこかしこに死体も転がっている。
この作品のすごいところは、よねの弁護士としての信条が確立された経緯をきっちり描いた点だ。よねが遭遇したのは、差別されたり、虐げられて苦しむ人ばかりだ。声を上げることを諦める人、搾取に甘んじる人もいる。
生きるために、体を売るしかない女性(呉城久美)や、犯罪に加担するしかない孤児たち。被差別部落出身の男性(岩戸秀年)や朝鮮人の姉弟は苦しんでいた。自国では虐げられる側だと訴える黒人の米兵(ウィリー・S)もいた。憲法第14条を事務所の壁に大きく書いた背景には、法の下の平等がまったく実現していないことへの「怒り」がある。轟太一(戸塚純貴)とタッグを組んだのもよく分かる。だからこそ、本編で原爆裁判の原告側や尊属殺人裁判の被告側の弁護を引き受ける、不屈の精神に説得力も出た。
さらに、よねは正義の人だが、正義だけでは人を救えない場面や、正義の定義が人それぞれと思い知らされてへこむ場面が多いのも秀逸だ。人を救うのは人権や尊厳を守る法律ではなく、目の前のお金や食べ物だ。売春を生きるすべと捉えた姉(秋元才加)からは揶揄され、法律相談の依頼者には失望され、戦争孤児だった松子(高野 菫)には助けの本質を問い詰められ。よね自身がGHQの通訳(森迫永依)に線引きしたことを恥じる場面もあった。しかも姉を殺したのが「哀れな復員兵」というやりきれない結末も。主人公を満身創痍に追い込むのは良質なドラマの証。
そうそう、進駐軍向け慰安所を作った水谷(大谷亮介)に怒りをぶつけた場面では快哉を叫んだ。そもそも慰安って何だよ、と改めて世に問う名場面でもあり。
山田よねという人間を心から愛して温かく見守り、育んだ72分の脚本に拍手。








