なぜ名門野球部で「少女のわいせつ動画」拡散が相次ぐのか…“閉鎖的な空間”で暮らす“結束の固い集団”をエスカレートさせる“道具”とは
道徳の逸脱
モラルスリップは一般的に「道徳的判断や倫理的行動における軽微または一時的な逸脱」と定義されている。身近な例で言えば、路上禁煙区域で喫煙者が思わず「歩きタバコ」をしてしまった、というようなケースだ。
モラルスリップが問題なのは、軽微な逸脱が許されてしまうと、倫理基準に反する行動がエスカレートする場合があるからだ。小さなルール違反が見過ごされると、次第に大きなルール違反を犯すようになり、最終的には大きな犯罪行為に手を染めてしまう──。
薬物依存のプロセスが参考になるかもしれない。最初はタバコやアルコールといった合法の物質で満足していた。だが、ある時にマリファナを吸ってしまう。誰にもバレずに済むと、その後は徐々に依存性の高い違法薬物を摂取するようになっていく。そして最終的には刑事事件の被疑者として逮捕される……。
出口教授は「スマートフォンは本当に便利なものですが、実はモラルスリップを起こしやすい道具なのです」と警鐘を鳴らす。
スマホを使ったビデオ通話は、本物の人間と実際に会話しているのは間違いない。だが、真にリアルな対面コミュニケーションとは言えないだろう。
面と向かっては口にできないことでも、どこかバーチャルな空間の力を借りて“命令”することができてしまう。一度、道徳を逸脱して問題動画や画像の入手に成功すると、さらに欲望はエスカレートする。さらに道徳を逸脱させ、部員への拡散、共有という犯罪行為に及んでしまう。
高校野球界の特殊性を指摘する識者もいる。名門野球部は部員が寮で暮らしている高校が多く、上下関係が厳格なケースも珍しくない。閉ざされた空間の中では“自分たちのルール”が最優先され、道徳や法律は二の次という傾向も認められる。
徹底した教育が必要
「私は野球部の実情に詳しいわけではありません。ただし一般論として、閉鎖的な場所では“タガが緩む”のは確実だと言えます。部員同士の結束は固いため、『自分たちの間では秘密が守られる』と考えやすくなります。外部の人には決して言えないようなことでも、部内であれば言えてしまうということもあるでしょう。そのような空間では、ある部員が自己主張したいと思った際、より過激な方法で表現してしまうということもあり得ると思います」(同・出口教授)
再発防止のためには、やはり徹底した教育しかないという。
「スマホを利用しているうちに、少しずつルールを破ってしまう。それが積もり積もると感覚が麻痺し、法律を破っても気にしなくなってしまう。インターネット上の匿名性を過信していると、最終的には闇バイトのように犯罪組織に取り込まれてしまう可能性や、今回の事件のように被害者を深く傷つけてしまうことがある。そうした事実を、きちんと高校生に教えることが何よりも必要なのです」(同・出口教授)
出口教授が訴えるような強いメッセージを高野連が発表していれば、現在のように高校野球に対する不信感が増加するようなことはなかっただろう。
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註:朝日新聞2月13日朝刊




