粗品のライブ配信、驚異の3.7万枚突破 吉本社員の“裏切り”を100%エンタメ化した天才的プロデュース術

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

一連の物語構造

 ところが、粗品はこれを単なる小さなトラブルで終わらせなかった。「問題提起→調査→犯人特定→ライブでの全容解明」という一連の物語構造に仕立て上げて、視聴者を続きが気になる状態に引き込んだのだ。彼の動画を見ているうちに、人々はいつの間にか事件の真相を知りたくなっている。そして、何かに導かれるようにチケットを購入してしまう。事件を盛り上げてライブに観客を引き寄せる粗品の手際は見事なものだった。

 ライブの内容も良かった。ドンデコルテ、エバース、エルフなど今が旬の芸人も多数出演していたし、オールナイトイベントということで通常のライブより時間も長かった。まだ配信期間中ということもあって具体的な内容のネタバレは控えるが、確実にチケット代のもとは取れるだけの充実した内容だった。ライブの出来が良かったからこそ、口コミで話題が広がって配信も売れているという面もあるのだろう。

 音楽のライブなどに比べると、お笑いライブはややマイナーな存在である。テレビやYouTubeでお笑い系のコンテンツを見る習慣がある人でも、実際にチケットを買ってライブに足を運んだことがある人は少ない。

 だからこそ、影響力の強い芸人である粗品が、ここで配信チケットを大量に売ったことの意義は大きい。彼が本格的に仕掛けたことで、配信チケットの売上が過去最高のぶっちぎりの記録になった。こうなることでお笑いライブそのものにも世間の注目が集まるし、これをきっかけに別のライブの配信チケットをまた買おうと思う人も出てくるかもしれない。

 大げさに言うなら、それはNetflixが手がけたWBC独占配信という試みに近い。WBCという圧倒的な人気コンテンツがNetflix独占配信になったことで、Netflixに新たに加入する人が一気に増えた。彼らの中には、WBCだけを見てすぐに解約してしまう人もいるかもしれないが、これをきっかけに、Netflixのほかのコンテンツをチェックする人もいるかもしれない。WBCが呼び水となって、Netflixや配信というものに新たな客層が取り込まれたのは間違いない。

 粗品のライブでもこれと同じことが起こった。お笑い界のメジャー級のスターである粗品が、お笑いライブを主催して話題を振りまいたことで、お笑いライブという文化が普段そこに触れていない層にまで広まった。それがお笑いそのものを盛り上げて、業界を活性化することにつながっている。

 粗品はただの芸人ではない。芸人としての実力、プロデューサーとしてのセンスを武器にして、お笑い界を盛り上げる興行主であり、天才的なプロデューサーなのだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。