「ネトフリ」独占配信に賛否のウラで…WBCを生中継した「ラジオ」の底力 元実況アナが明かす「音だけのメディア」の強み

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ラジオでの生中継

 その一方、「地上波」で中継が一切なかったかというとそうではありません。私の古巣である「ラジオ」ではこれまで通り生中継が行われました。

 ネトフリの独占中継権は、あくまで「映像を伴う中継」であり、音声だけのラジオは「別物」という扱いになったのです。

 残念ながらラジオの聴取率は「セッツインユース」と呼ばれるAM、FM全局の合計が視聴率の低下が叫ばれるテレビに遠く及ばず、地域によってバラツキはあるものの、近年では5%にも満たない状況です。

 かつて、家ではラジオを聴かなくても車に乗れば聴くという生活パターンだったのが、カーナビの普及とともに崩れ、それに伴って親の車に乗る際にラジオを聴いていた子供たちが、ラジオを聴く機会なく大人になる時代になりました。

 また、以前はタクシーに乗ればラジオが流れていたものですが、十数年前から「お客様から要望がない限りはラジオを流さない」というルールーがタクシー業界内で出来たそうで、それがスタンダードになり、車載モニターの普及も相まってタクシーでラジオを聴く機会もなくなってしまいました。

 名古屋をはじめ東京や大阪など民放ラジオ局が複数ある地域では、タクシー運転手さんごとに「ごひいきの局」があったものですが、ラジオに携わってきた私からするとさみしい限りです。

 1950年代まではお茶の間の中心だったラジオが、テレビの普及とともにその座を追われたのが時代の流れなら、ネトフリやYouTubeなどに押され、テレビもその座を明け渡しつつあるのは時代の流れだと思います。

 そんな時代にあってラジオは、大規模災害の発生時にこそ貴重な情報源として認知される一方、平穏な日常ではその存在感は薄いのが実情です。

 今回、ニッポン放送が1次ラウンドから、文化放送が決勝ラウンドで中継を行ったのですが、お聴きになった方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。

 ラジオは言うまでもなく「音だけのメディア」です。スポーツ中継の場合はその音からいかに聴いている方の頭の中でその情景を思い浮かべてもらえるかが勝負になります。

 今でこそ数が減りましたが、AM各局はJリーグ開幕前年の92年から数年、ラジオでサッカー中継をしていました。私もそのスタートから携わりましたが、南米などサッカーが盛んな国を知る解説の塩澤敏彦氏からこんな話を聞いたことがあります。

「日本でサッカーのラジオ中継はまだ難しい。南米各国でもラジオ中継をやっているが、リスナーは選手の名前を聞いただけでどんな選手か、ポジションはどこか、どんなプレースタイルかを熟知しているので、極端な話、ボールを持っている選手の名前を連呼するだけでリスナーは頭の中にピッチで今何が起きているかを想像することができる。しかし日本人はまだその域に達していない」

 逆に野球は国民的スポーツとして広く普及しているので、音だけで頭の中にグラウンドの状況を思い浮かべることができる、というのです。

 あれから四半世紀以上が経ちました。現状はどうでしょうか。

ラジオの力

 2000年代までは巨人戦はほぼ全試合テレビ中継されていましたが、巨人以外のチームのファンは巨人と対戦していなければAMラジオで中継を聴いていました。また、地元に野球チームがない地方で全国ネットで放送される巨人戦以外のカードを聴くには、贔屓のチームの試合が中継されている遠く離れた局の弱い電波をラジオの向きを調整しながら雑音との闘いを繰り広げつつ受信して応援していました。

 今はCSや、特定のメディアと契約すれば、チームがどこにいても映像付きで試合を観ることができます。残念ながらラジオの野球中継は、熱心であればあるほど野球ファンにとってのウエイトは低下していることは否めません。

 そんな時代に「音だけのメディア」であるラジオ中継に、今回を機会に一人でも多くの方が触れてくれたことを祈るばかりです。35年にわたりラジオ中継に携わった私は、今もラジオの力を信じています。

 同じスポーツ中継でも、ラジオとテレビではアナウンサーに求められるスキルは全く違います。これについてはまた回を改めてご紹介しますね。とにかく、今はこの言葉しかありません。

「侍ジャパンの皆さん、本当にお疲れさまでした」

村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。

デイリー新潮編集部

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