WBCで再注目…高代延博さんの“寝そべり”はなぜ語り継がれるのか 伝説の三塁コーチ列伝

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早くホームへ行け

 00年6月8日の巨人戦、2点リードの8回、無死二塁でハートキーの投前バントが三塁への悪送球を誘発した際、サード・元木大介はグラブを精いっぱい伸ばしてベース上に倒れ込んだどさくさに紛れ、ヘッドスライディングしてきた二塁走者・平尾博司を押さえ込んだ。これでは本塁を突くことができない。

 これを見た伊原コーチは三塁ベース目がけて突進し、「思わず手が出ちゃった」と元木を突き飛ばすと、「早くホームへ行け!」と平尾を促した。巨人・長嶋茂雄監督は守備妨害をアピールしたが、三塁塁審は元木に守備妨害を適用し、得点を認めた。

 “クセ者”に捕まった走者を救出して自軍に貴重な1点をもたらす。シチュエーションは異なるが、高代コーチ同様、体を張って三塁コーチの仕事をまっとうしたことになる。

 阪神の岡田彰布前監督は1軍内野守備走塁コーチ時代の03年に三塁コーチを務めたが、捕球体勢のわずかな乱れを見逃さずにゴーサインを出す的確な判断力で、当時中日の外野手だった大西崇之氏が「うまいな」と感じた三塁コーチに挙げている(2021年2月12日配信・東海ラジオ『radiko news』)。

 阪神監督時代の24年6月30日のヤクルト戦では、1点ビハインドの9回2死一塁、佐藤輝明の左越え二塁打で本塁を狙った一塁走者・植田海がタッチアウトでゲームセットになると、「1点負けてるんやで。二、三塁でええんちゃうの? 何でも行けじゃないやろ。こんな狭い球場(神宮)で。そこは状況判断やんか」と藤本敦士コーチに苦言を呈した。

 この発言は一部で「パワハラではないか」と批判されたが、“昔取った杵柄”ならではの洞察力がうかがえたのは事実だった。

 WBCもいよいよ大詰めを迎えた。打者や投手に視線が集まる大舞台だが、その陰で勝負を左右するのが三塁コーチの一瞬の判断である。高代コーチの“寝そべり”が今なお記憶に残るのも、咄嗟の判断ひとつで試合の流れが変わることを、あのワンプレーが鮮やかに示していたからにほかならない。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部

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