「長嶋」「王」「星野」のようなスター性はないが… “いぶし銀”の井端氏が侍ジャパン監督に選ばれた必然

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U12侍ジャパンでの経験

 さらに井端には他の指導者にはないもうひとつの強みがあった。それは巨人のコーチ退任後に、プロだけでなく社会人から少年野球まで幅広く指導してきたという経験だ。中でも大きかったと話すのが22年から2年間務めたU12侍ジャパンでの経験だという。

井端「解説者で外から野球を見たり、アマチュアも含めて色んなチームに臨時コーチみたいな形でも行かせてもらいました。ただ、個人的にめちゃくちゃ大きかったのはU12で監督をやらせてもらったことですね。特に1年目はなかなか勝てなくて、ワールドカップでも7位だったんで、最初の方はずっとイライラして怒ってばかりいました。何でこんなことができないのかってずっと思っていましたね。寝坊して遅刻した選手にもすごく怒りましたし。でもよく考えてみればまだ小学生の子ども。普段知らない人と一緒に生活して、しかも海外となればいつものようにできないのも当然ですよね。1年目の時はとにかく試合に集中させたい、緩めたくないということで選手と保護者もなるべく近づけないようにしていました。2年目はそういうこともやめて、晩ご飯を保護者と一緒に食べに行かせる機会も作りました。あと選手のことをよく見るようになりましたね。寝坊したのであればそれは疲れているというサインですし、リラックスできていないのかなと。小学生は特に普段の生活にも個人差が出やすいんですよ。食事の時でもみんなで騒がしくしている選手もいれば、1人でおとなしくしている選手もいる。じゃあ騒がしい選手がこちらの話を聞いていないかというとそういうわけでもない。だから無理にみんな同じように行動させなくてもいいなと思うようになりました。あと野球に関して言うと、小学生だと良くも悪くもこちらの想定からかけ離れたプレーをするんですよ。練習を見て大丈夫だと思って試合に出したら全然上手くいかないこともありました。だからなるべく試合中にポジションを変えたりせず、ピッチャーも途中から投げる選手はベンチからスタートさせて、準備をしっかりさせるようにしました。それでもなかなか上手くいかないですからね。2年目のU12の時はそういうことを経験していたので、何があってもイライラすることはなくなりましたし、プラスに考えられるようになりました。そんな小学生を相手にやってきたことと比べれば、大人のしかもプロの選手となれば、こちらの想定を大きく外れるようなことはありません。だからベンチでも比較的落ち着いて試合に臨めていたと思います」

 U12ワールドカップの成績を見てみると、井端が初めて監督を務めた22年はオープニングラウンドでアメリカ、韓国、ドミニカに敗れ、その後の順位決定ラウンドでは3連勝したものの7位という成績に終わっている。翌23年は前年に敗れたアメリカ、韓国、ドミニカにはいずれも快勝。惜しくもメダルは逃したものの、前回大会を上回る4位という結果を残した。精神的にも肉体的にもまだまだ未熟な小学生の代表チームを指揮し、反省を生かしながら結果に繋げたことは井端にとっても大きな経験だったと言えそうだ。

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 そんな経験を礎に、侍ジャパンの指揮を執る井端監督。来たる準々決勝ではどんな景色を見せてくれるか。

※本記事は、井端弘和・西尾典文著『日本野球の現在地、そして未来』(東京ニュース通信社)の一部を再編集して作成したものです。

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西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABB-lab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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