「吼えない番犬」と揶揄された公取委…“特捜の相棒”の威信をかけて挑む軽油カルテル事件捜査の舞台裏
グーグルと激しい攻防も
ガーファに対して行政処分の「命令」を行ったのは初めてのこと。グーグルへの行政処分では、デジタル広告事業で自主改善を約束させた24年4月の「確約計画の認定」に続く2例目となったが、この審査過程では公取委とグーグルの間で激しい水面下での攻防があった。
23年10月に記者会見を行った田辺治公取委審査局長(当時)は席上、「有力な事業者が市場支配力を固定化すると、消費者に不利益となる」と述べ、グーグルへの審査開始を“宣言”。1年半に及んだ審査で公取委は、スマホ端末のメーカーやグーグル側から聴取を進め、メーカーとの取引の中で行われていた違反行為の影響は「あまりに大きい」と判断。再発防止を求める排除命令に踏み込んだ。
前出の公取委OBは「グーグル側は審査が1年に及んだ段階で、半年前の行政処分と同様に確約の手続きにとどめてもらえれば、処分を受け入れる意向を水面下で打診したそうだ」と内幕を明かす。その上で、こう話す。
「だが、確約の手続きは自主的な改善策を盛り込んだ確約計画を提出することと交換に、調査を打ち切らせる制度。違反そのものは認定されないから、企業側としては株主代表訴訟やイメージダウンを回避できる。逆に公取委もメンツは保たれるが、灰色決着の印象が強い」
つまり、公取委とガーファの攻防は、まだ始まったばかりなのだ。また、公取委では独禁法と並ぶメインの所管法である下請法の改正に伴って、業務の増大も危惧されている。
下請法は下請けいじめを規制する法律で、昨年5月に改正法案が可決され、中小受託取引適正化法(取適法)と名称が変更された。同法は今年1月1日に施行されたが、公取委では取適法の執行体制強化を踏まえて、26年度予算に137人の増員を盛り込んだ。同弁護士は「公取委では審査局や経済取引局、地方の出先機関のいずれでも審査官や調査官といった人員のやりくりが、慢性的に追い付かない状況にある」とする一方で、公取委に期待感を示す。
「社会問題となっている物価高騰の背後には、談合やカルテルが存在している可能性があることも確かな事実。今こそ公取委の奮起に期待したいと思っている市場関係者も少なくないはずだ」
その最中の昨年9月、公取委が強制調査に乗り出したのが、石油製品販売大手のENEOSウイングなど8社による法人向け軽油販売価格についてのカルテル容疑である。存在意義を問われかねない、“土俵際”に追い込まれているとも言われる公取委が、満を持して抜いた“伝家の宝刀”に応え、特捜部は3月4日、公取委と合同で8社のうち証拠隠滅の恐れがある企業に照準を合わせ家宅捜索に着手した。
強引な取り調べなど不祥事が相次ぎ、未だ改革途上にある特捜検察と、数多の課題を抱える公取委。“青息吐息”の感もある両捜査機関が再び手を取り合って、国民生活を脅かしている物価高を助長する独占市場から膿を出し切ることが果たしてできるのか。刮目したい。



