「オイチニ」の掛け声で淡々と走り去った2人、実は脱獄囚だった…警察のミス多発、最初から最後まで珍妙すぎる「昭和の大脱走」
線路伝いに歩く2人の姿を発見
前橋警察署に刑務所から通報が入ったのは、脱走発生の約20分後だった。群馬県警本部はただちに全県緊急配備を指令。主要道路の交差点など59カ所に検問所が置かれ、約1000人の警察官が動員された。後藤と田中が刑務所から600メートルのところでライトバンを奪ったことは、すでに判明していたからである。ライトバンは間もなく、両毛線の線路わきに乗り捨ててあるのが見つかった。
線路伝いに歩いている2人の姿が発見されたのは、夜11時ごろになってからだった。あとで判明したことだが、2人はライトバンの中にあった約2000円の一部でハイライト2個と簡易ライターを買ったあと、とある工場に忍び込んで夜になるのを待っていた。
発見した前橋署員にライトを当てられた2人は、線路沿いの工場の壁を越えて姿を消した。たまたまそこは広大な木工団地。90もの工場、木材置場などがある。逃げ込むには願ってもないこの場所に、警察は二重の大包囲網を巡らした。警察官と刑務官(注:脱走後48時間は彼らにも逮捕権がある)合わせて350人、パトカーなど捜査車両60台、警察犬3頭。2、3人のグループにわかれ、しらみつぶしに捜索した。
冷たい雨の降る真っ暗闇、疑心暗鬼の深夜は“同士討ち”が相次いだ。「発見」の知らせで駆けつけてみれば、暗緑色の制服・制帽の刑務官であったり、取材熱心な新聞記者氏であったり……。ついに3日午前2時半、捜査を休止して夜明けを待つことにした。
翌朝に発生した強盗は“二次犯罪”か
朝5時、再び捜索を開始したが、手掛かりすら見つからない。8時50分、とうとう捜索を打ち切り、包囲網を解いた。捜査陣は“意外な空振り”にあせり始めた。車の検問は続けていたし、木工団地周辺の捜査にも力を入れていた。
しかしこの3月3日は、夜7時40分すぎにある町民からホンダの軽乗用車が盗まれたという届け出が一件あったのみ。この車は翌4日の正午すぎ、利根川にかかる大渡橋のたもとでパトカーに発見された。たもとにある交番の向かいで、前の晩から乗り捨てられていたのだ。その前では検問が行われていたが、動いている車にのみ気を取られ、まったくの「灯台もと暗し」であった。
事件発生から44時間がすぎた4日正午すぎ、県警本部は「憂慮していた“二次犯罪”が起きた、可能なかぎり捜査員を動員して検索すべし」という異例の本部長通達を出した。その日の朝、市内の民家に押し入り2万円を奪って逃げた2人組を脱獄囚と断定したのである。
被害者に聞けば、人相風体、言葉つきなど、後藤と田中に「そっくり」だったという。ところが、これも警察側のミスだったのだ。
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逃走中の2人は濡れ衣報道に激怒した――。第2回【群馬から千葉まで「ナンバープレートのない車」で爆走 「昭和の大脱走」脱獄囚2人が逮捕後に漏らした“納得すぎる感想”】では、ついに追い詰められた2人とあっけない幕切れを伝える。
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