あまりにも守備が巧くて「ファインプレーに見えない」…侍ジャパン「井端監督」球史に残る名ショートの真骨頂
名古屋のTOKAI RADIOでプロ野球をメインに35年間、スポーツ担当のアナウンサーを務めた村上和宏さんの連載が始まります。今年からフリーになった村上さんのポリシーは、野球に限らずスポーツ中継は「選手が主役」。アナウンサーは、目の前で起きた出来事を、いかにリスナーの頭の中でイメージできるように「伝える」ことが仕事。それだけに専心してきました。テレビとは違い、「話す」「語る」ことが何より重要な「ラジオ」一筋35年で得た知見を披露してくれます。記念すべき第1回は、WBC侍ジャパンの井端弘和監督との思い出です(全2回の第1回)。
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一軍デビューは外野手
はじめまして、フリーアナウンサーの村上和宏と申します。どうぞよろしくお願いします。名古屋のTOKAI RADIOでプロ野球をメインに91年から35年間、スポーツ担当の局アナとして勤務し、今年からフリーアナウンサーとして新たなスタートを切りました。
在職中はプロ野球のほかに、黎明期からのJリーグ、中央競馬、年一度の名古屋ウィメンズマラソンが主な担当競技でした。特にシーズンオフの間もキャンプや自主トレ、契約更改など一年を通して取材してきた中日ドラゴンズの選手やスタッフとは、仕事を超えたお付き合いをさせてもらっています。また人に恵まれ、他球団の選手やスタッフとも同様のつながりをいただいたことは大きな財産です。
TOKAI RADIOはローカル、しかもAM局では数少ないラジオ単営局ということもあり、スポーツだけではなく、日々のニュース読みはもちろん、報道取材、ドキュメンタリー番組の企画制作、ワイド番組のDJ、番組プロデューサー。管理職になってからは会社の代表として公的機関の委員など、皆さんがイメージするアナウンサー像を超える様々な業務を担当してきました。こうした経験も活かしながら、徒然なるままに書き綴っていきますのでお付き合いください。
記念すべき第1回は、3月6日に開幕するWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。連覇が期待される日本代表(侍ジャパン)ですが、ドラゴンズOBにして代表チームを率いる、井端弘和監督(50)との思い出を振り返ります。
1997年、ドラフトで5位指名された井端選手は、順風満帆なプロ生活をスタートさせたわけではありませんでした。プロ1年目の98年、一軍の試合デビューはシーズン大詰めの9月末。当時は福留孝介選手(48)がショートのレギュラーとして起用されていたので、本来のポジションではない外野での起用でした。
「レギュラーを獲得するにはバッティングよりも守備」という思いから、特に守備練習には鬼気迫るものがありました。
「プロ野球選手は、打てなきゃレギュラーになれないだろう」
と思われる方は多いでしょう。しかし、レギュラー選手は試合で守備についている時間が一番、長いのです。打者は3割打てば一流と言われます。つまり10打席で3本ヒットを打てば「良いバッター」という評価を得ますが、守備はそうはいきません。守って当たり前、たった一度の小さなミスでも、そこから試合の流れが大きく変わることがよくあります。いち早くこれに気づき、実戦でミスをしないようにあらゆる場面を想定した練習を重ねたのが井端選手でした。
ショートのレギュラーをつかんだのは4年目の01年。その後、04年から09年まで6年連続でゴールデングラブ賞を受賞するなど、荒木雅博選手(48=現ドラゴンズ本部長補佐)と、鉄壁の二遊間「アライバ」コンビとしての活躍は、皆さんの記憶にも新しいと思います。
その“鉄壁の守備”を物語る逸話として、オールスターゲームで井端選手がショートを守っている時に登板した投手が「抜けたと思ったのに、普通に一塁でアウトになっていた」と話し、逆に井端が出ていないイニングに投げたドラゴンズの投手が「打ち取ったと思ったら抜けていた」と語っていたのを思い出します。いかにずば抜けた守備力だったかがよくわかります。
我々、実況アナウンサーも、彼の守備を大いに盛り上げてお伝えしたいところなのですが、アライバのすごいところはファインプレーをファインプレーらしく見えないようにやってのけることでした。抜けそうな打球に飛びついてすぐに送球、という動きなら、
「飛び込んだ! すぐに起き上がって二塁へ送球、アウト! 一塁へ転送、ダブルプレー!!」
と、プレーのままに盛り上げるのですが、井端選手のところに打球が飛ぶと、平凡な打球のように裁くので、
「打球はショートへ。井端すくい上げて二塁へ送球、フォースアウト。一塁転送アウト、ダブルプレー」
と、何でもない普通のプレーのような実況になってしまうのです。
実は井端選手、キャッチャーのサインを見て「この球種でこのバッターならこの方向へ打球が飛ぶ」あるいは「この場面はこの方向を狙って打ってくる」ことを予め想定して微妙に守備位置を変えたり、体重を左右どちらにかけて待ったりするなど、一球一球に繊細な準備を怠りませんでした。だから、普通の選手なら捕球の際に精一杯のプレーになる打球を(結果ファインプレーとなるのですが)、捕って当たり前のようにプレーするので派手さがないのです。
しかし井端選手のプレーは「今のはなんでもないプレーのように見えましたが、とんでもないファインプレーですよ」と、解説者をいつもうならせていました。
「ファインプレーを、ファインプレーらしく見せない」これこそ、井端選手の真骨頂だったといえます。
【第2回は「ついにWBC開幕! 実況アナが語る「井端監督」秘話 「リモート出演の最中にお子さんが近づいてきて…“パパはいまお仕事中だから”と照れていましたね」」】






