婚活相手に「クソ老人!」「老眼鏡つけとけよ」と罵られたことも 『ザ・ノンフィクション』結婚相談所シリーズ、「ベテラン婚活ライター」の見方

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 放送されるたびに、反響を呼ぶ『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)の結婚相談所シリーズ。婚活に挑む男女の人生ドラマが視聴者をひきつけて離さないようだ。

 数多くの婚活サービスを試して『婚活したら、すごかった』『57歳で婚活したら、すごかった』などの著書を持つ石神賢介氏もまた、番組を見て他人事とは思えなかったようだ。

「婚活のベテラン」(ただし成功せず)の石神氏はどう見たか。生々しい実体験も盛り込んだ特別寄稿である。

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スーツを買い、転職もしたのに

 フジテレビ系のドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』の結婚相談所シリーズは人気が高いようだ。

 2026年も2月1日と8日に新作が前後編で放送された。タイトルは「結婚したい彼と彼女の場合 ~令和の婚活漂流記2026」。これまで同様、結婚相談所「マリーミー」のカリスマ婚活アドバイザー、植草美幸氏のもとを訪れて婚活に奮闘する男女を長期にわたって追っている。

 今回は31歳(番組の後編では32歳)の介護福祉士、久保さん(仮名)の婚活を軸に展開。久保さんは都心部から電車で1時間以上離れた神奈川県の2LDKの賃貸マンションで1人暮らし。父親はすでに他界。母親は介護施設で暮らしている。年収は370万円。

 大学1年生のときに潰瘍性大腸炎になり中退し、その後専門学校で介護福祉士の資格を得た。
 
 この潰瘍性大腸炎は原因不明の難病で、安倍晋三元首相が第一次内閣のときに辞職した原因としても知られる。それほどのハンディを抱えて、久保さんは婚活を行っている。

 植草氏によると婚活のボリュームゾーン、つまり婚活を行っている男性が最も多いのは、年収400~500万円の層。370万円の久保さんがこの点で弱いのは確かだろう。

 こうした事情からか、久保さんは、婚活の場で必要以上に腰が低くなってしまう。相手の女性のほうが高収入のケースばかりなので、その“差額”を埋めようとして「支えます」とか「結婚したら、家事は全部やります」と言ってしまう。

 そんな久保さんを植草氏は甘やかさない。

「ペコペコ坊やを直しましょう!」「足りないのは強引さ。男性はグイグイ行くほうがモテますよ」

 無理な注文にも思えるが、そのハードルを越えなければ幸せはつかめないのだろうか。

「スーツを買い替えたほうがいい。サイズが合っていない。これだとオジサン!」

 植草氏のアドバイスで、久保さんはスーツなどを新調。6万1160円也。アドバイス料と合わせると10万円近い。大金だ。

 いいのか? 言いなりでいいのか? そういうマインドゆえ女性と親しくなれないんじゃないのか? 画面のなかの久保さんに向かってついそう言ってしまう。

 番組の後半、久保さんは8歳年上の40歳で年収2000万円台の紗栄子さん(仮名・外資系専門職)と仮交際へと進み、デートを重ねる。彼女は久保さんの素朴さや素直さに好感をもっている様子。久保さんの気持ちも恋愛モードに。夜勤のない土日休みの仕事に就いてほしいという彼女の希望に応じ、転職活動も始めた。ついに成婚か――という期待が高まる。

 しかし、紗栄子さんはほかの会員男性を選んで成婚退会してしまう。あれっ? 視聴者の多くががっかりしたに違いない。紗栄子さんに断られたことを植草氏に告げられた久保さんの姿を見て、こちらまで苦しくなる。

「ワケ分かんないんですけど。じゃあ今までの自分の転職は何だったんですか。ふざけんなよマジで」

 これまで温厚を絵に描いたような人だった彼が、強い言葉で感情を吐露し、腕で涙をぬぐう。もはや他人事とは思えない。

鼻毛のまま婚活してもうまくいかない

 初老婚活ライターの筆者(離婚歴1回)には20年以上にわたる婚活経験がある。ただし、結局成婚には至っていない。婚活のベテランと言えるが、そんなもののベテランが偉いわけではない。

 成果もあげていないのに今まさに正面から婚活にぶつかっている久保さんにアドバイスなどというのもおこがましいのだけれど、とにかく場数だけは踏んでいる。

 婚活パーティー、婚活アプリ、婚活バスツアー、婚活ハイキング、婚活料理教室、婚活座禅……などにチャレンジしてきた。会社員をはじめ、モデル、元女優、アナウンサー、医師、看護師、代議士秘書……など、40~50代でおそらく300人くらいの女性と食事やカフェやドライブに出かけた。
 
 その意味では、久保さんの大先輩とは言えると思うので、以下、番組を見て思ったこと、思い出したことを述べてみたい。多少なりとも婚活をしている人の参考になれば嬉しい。苦すぎる思い出を書くのは、「みんな苦労しているんですよ」と伝えておきたいからだ。

 筆者も植草氏と同じようなシステムの結婚相談所に登録した時期があった。現在の相談所は複数の会社が連盟を作るスタイルが主流。A社に入会すると、B社、C社、D社……と、ほかのいくつもの会社に登録している男女とお見合いできる。入会する相談所にもよるが、男性は数万人の女性会員に申し込めて、数万人の女性会員から申し込まれる可能性が生じる。もちろん女性会員も同様だ。

 お見合いした男女がおたがい好意を持つと、仮交際として1対1で食事や映画やドライブに出かけられる。この時点では同時進行で複数の相手と会える(男女の関係を持ってはいけない、ことになっている)。今日向き合って食事をした相手が、明日はほかの誰かと映画を観に行くわけだ。複数の相手と会った後1人にしぼったら真剣交際へ進む。すると、もうほかの会員に会ってはいけない。そのゴールとして成婚退会となる。

 結婚相談所はある程度ルールに縛られてはいるものの、一般社会の恋愛結婚と同じだ。モテる男女に人気は集中する。

 そもそも“婚活市場”でモテる男性とは――。身もふたもない話だが、高収入、イケメン、高学歴、なかでも高収入が圧倒的に強い。一方女性は、美形と若い人が圧倒的に有利だ。

 では、高収入やイケメンでなければお見合いできないのか、あるいはそれなりの交際経験を積まないと、大人の関係に進めないかというと、そうでもない。それを40代終盤で書いた拙著が『婚活したら、すごかった』。50代終盤で書いたのが『57歳で婚活したら、すごかった』だった。つらいことも、ちょっといいこともあった。

 実のところ、大人の関係にまで進んだことも少なくない。

 筆者が結婚相談所に登録したのは50歳のころ。この時点で初老なのでスペックは低い。さらに、フリーライターなので収入が不安定、身長は低く160センチ台、短い手足、Eランク大卒……。もちろん、イケメンとはほど遠い。

 それでも、1週間に2回ペースでお見合いが成立した。何がよかったのか――。ふり返ると、身なりに気をつけ、清潔感を意識したからだと思う。それだけ? と疑問に思われるかもしれない。でも、婚活ではとくに清潔感や礼儀やマナーが基本だ。

 まずプロフィール写真は、美容室で髪を整え、襟のあるシャツにマシなジャケットを羽織って、スタジオできちんとライティングして撮影した。自己紹介文は短いセンテンスを心掛けて、正しい敬語を意識した。文化的な趣味やスポーツ経験は具体的に記入した。お見合いやデートのときは、夏も冬もジャケットを羽織り、靴をピカピカに磨いて出陣した。もちろん、相手が10歳若くても15歳若くても、常に敬語を使うようにした。

 こうしたことは当たり前に思われるかもしれない。でも、担当カウンセラーによると、身なりを意識する男性は少数派だそうだ。ぼさぼさの髪、洗いざらしのTシャツやデニム、サンダルでお見合いの場に行く男性会員も珍しくないらしい。鼻毛が飛び出していたり、ゲジゲジ眉毛のまま整えずにいたりすることも少なくないと聞いた。だから結婚相談所のカウンセラーは、お見合い前日に自分が受け持つ男性会員に口酸っぱく指導していた。

 女性の場合はとくに、笑顔の写真に人気が集まっていた。さらに露出の多い服、身体のラインがきれいに見えるニット、水着の写真をアップしている女性もよくお見合いを申し込まれていた。筆者も含めて男は、「女性らしさ」を強調されると、つい興味をもってしまう。

クソ老人!

 もちろん、筆者もさんざん痛い目に遭ってきた。

 あれは50代後半にさしかかったころ。41歳の銀行員の女性と婚活で出会い食事の機会を重ねた。交際は順調に進展しているように思えた。しかし、一気に奈落の底へ。

 ある朝、彼女からのLINEに自分の目を疑った。

「連絡しないでください。無理です」

 前夜は次に会うスケジュールを相談していた。彼女から電話もかかってきていた。しかし、こちらになにか失言があったのかもしれない。こういうときは引き際が大切だ。未練を断ち切り、すぐに去るのがベストだと体験的にわかっていた。

「失礼しました。もう連絡はさしあげません」

 1本だけレスポンスをしたら、想定を超えた即レスが来た。

「連絡すんなって書いてあんの読めないのかよ。老眼鏡つけとけよ。てめーからLINEくるだけでゾッとして不眠になるわ。クソ老人!」

 しばらくは立ち直れなかった。

 相談所でお見合いを申し込んでくれた女性に本気の恋をしたこともある。相手は50歳で画の個人レッスンで生計を立てていた。容姿は外国の女優のよう。自宅が比較的近く、3か月の仮交際期間に20回以上食事をした。手もつながず、もちろんそれ以上もなく、ただただ彼女の聞き役に徹した。職業柄、人の話を聞くのはプロだ。

 しかし彼女は別の男性と成婚退会。筆者以外にも同時進行で5人の男性と会っていた。

「結婚する相手は会社員の男性がいいと思いました」

 そう言われた。

「誰かそばにいてほしい」

 筆者は今もシングル生活を送っている。

『ザ・ノンフィクション』の「結婚したい彼と彼女の場合」のディレクターは、久保さんのほかに3人の男女を追っていた。成婚した人もいれば、うまくいかない人もいた。

 そのなかの1人、高齢者施設で理事を務めている35歳の小百合さん(仮名)のケースに、婚活で成婚するヒントがあると思った。

 彼女の年収は800万円台。父親はおそらく経営者で、年収は億を超えている。

 彼女が結婚に求めているものは主に2点のようだ。まず、子ども。子を授かれるならば、相手の容姿や年齢は問わない。すでに卵子を凍結保存していた。

 また、経済的に釣り合わない相手とは価値観を共有できないことを婚活経験によって再認識していた。だからこの2点さえクリアできれば、ジジイにも髪が薄い男性にも積極的にアプローチしている。

 結局、小百合さんは自分の親世代で、年収4億円の男性と成婚退会。経済力はクリア。子どもについては、彼が不妊治療を行う確約を得たという。

 婚活で大切なのは、まず、自分にとって何が一番大切なのかを知ること。それが人柄なのか、経済力なのか、子どもなのか、容姿なのか、学歴なのか……。そのもっとも大切な条件以外は相手に求めない、くらいの覚悟が必要だと思う。

 次に婚活で大切なのは、婚活市場での自分の“商品価値”を客観視すること。釣り合う相手としか幸せにはなれないからだ。

 筆者がかつて夢中になった画の先生は父親が経営者で、経済的に豊かだった。負け戦を覚悟して努力したものの、あらゆる面で不釣り合いだった。そもそも無理な婚活だったと思う(わかっていながらあきらめきれなかったのだが……)。筆者はその後、一人で楽しく生きていく術を追い求めているが、それはこの記事のテーマとは離れるので割愛する。

 ディレクターの女性は番組の終盤、両回の主人公ともいえる久保さんにストレートに質問している。

「なぜそんなに結婚したいんですか?」

 久保さんは紗栄子さんに断られても、そのほかの女性に屈辱的な振られ方をしても、“鬼コーチ”の植草氏に厳しく叱られても、婚活を継続している。転職して年収は20万円アップ。出勤初日に自転車で転倒して顔面傷だらけになりながら、休みの日には日雇いのアルバイトまでして、年収は婚活のボリュームゾーンに到達。植草氏に「こっからが勝負ですよ」と尻を叩かれてひげ脱毛までやって、清潔感を増している。

 ディレクターは、そんなことまでして結婚しなくてもいいのではと思ったのだろう。

 しかし、久保さんの意志は固い。

「病気で人との出会いがなかった。友だちもいない。結婚して、誰かにそばにいてほしい。そこはあきらめきれない」

 そう答える久保さんに執念を感じた。

 筆者と比べると、彼の場合はまだ若いという点が強みだ。フリーランスではないのもプラスのはず。番組を通じて彼の人柄の良さを感じた人も多いだろう。この婚活がハッピーエンドを迎えることを、老兵は心から願っている。

石神賢介(いしがみ・けんすけ)
1962(昭和37)年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターに。人物ルポルタージュ、体験ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。著書に『婚活したら、すごかった』『57歳で婚活したら、すごかった』など。

デイリー新潮編集部

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