宝塚を「クビ」に、同じ演技を20回以上やり直してもあっけらかん 「淡島千景」の類まれなる「陽性」と「母性」【昭和女優ものがたり】

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名コンビ・森繁久彌

 2人の息の合った名場面を紹介しよう。柳吉が酒を飲み過ぎて朝帰りをすると、蝶子は怒って柳吉を引き摺り回す。そして首を押さえつけて水の入った樽に何度も顔を押しつける。圧巻のシークエンスだ。

 淡島は「豊田先生が『突っ込んで』とおっしゃったんですよね。(森繁は)『俺は死ぬかと思った』って(笑)」と振り返った(『淡島千景 女優としてのプリズム』青弓社)。一方、森繁は「えらい目に遭いましたね。虫も殺さぬ気立のいい人だけど、キャメラが回ると手加減を忘れる(笑)」と語った(山田宏一編『銀幕の天才 森繁久彌』ワイズ出版)。

 法善寺横丁で2人が夫婦善哉を食べるラスト。柳吉が「おばはん、頼りにしてまっせ」というところがしみじみといい。流行語にもなった有名なセリフだ。2人はブルーリボン賞の主演賞をそれぞれ受賞し、その後舞台も含めて多くの作品で共演をすることになった。

女優・淡島千景の魅力

 ここで改めて淡島千景の魅力を考えてみたい。月丘夢路や原節子のように、華やかさがある美人ではないが、どこか親しみのある美しさがある。

 女優の淡路恵子は、デビュー前から淡島のファンで芸名に一字もらったほどだ。淡島の目に憧れて自分で目の下にスジをつけようとしたらしい。淡島に「あんたバカね。あたしこれがいやでしょうがないのに」と言われたが、淡路は「あの目がたまらなく好き」と言っている(『淡島千景 女優としてのプリズム』)。

 そう、淡島の魅力の一つは涙ぶくろが特徴的な目だろう。色気を湛えながら、相手を理解しようとする温かさと親しみを感じる目。これは、淡島最大の特性「母性」へと繋がっているのではないか。

「夫婦善哉」の蝶子は、ダメ男・柳吉を決して見放さない母なる包容力がある。「早春」の浮気をした亭主に対しても、怒っていながらどこか許しているように見える。「あなたってホントにしょうがない人ね」そんな感じだ。

 本人は自分のことを「私はきっと『陽性』なんでしょうね。あまり無理をしていないのね」と語っている(『淡島千景 女優としてのプリズム』)。本人が意識していない特性なのかもしれない。

 淡島は後年、舞台を中心としながら映画やテレビにも出演していたが、2012年2月に膵臓がんで死去する。最後の出演作は前年の「渡る世間は鬼ばかり」(TBS)で、撮影中に体調を崩していたという。多くの妻役や母親役を演じたが、生涯独身だった。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部

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