「自衛隊は危険な存在」という世界観をいまだに訴える東京新聞と教師たち 有事に彼らは誰に助けを求めるのか

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「自衛隊=危険」という世界観

 軍事拡大はまさに中国と北朝鮮が行っていることであり、「子ども版 防衛白書」は平易な言葉ながら、安全保障環境の悪化と、それに備えるための自衛隊という存在を説明しているのだが、「自衛隊=軍=危険」の構図で見れば、「こんなものを小学校で配るなんて!」となってしまうのだろう。

 自衛隊という組織やあり方に問題があれば批判すべきである。その点で、パワハラ問題などはメディアも取りげるべきだろうし、自衛隊側も解決すべき課題である。だが軍事について、安全保障について、そして自衛隊について知らなければ、まっとうな批判も検証もできない。まずは土台となる認識を持つべきだろう。

 その点でいえば、「子ども版 防衛白書」は大人が読んでもためになる内容だ。自衛隊の組織や自衛官の生活の他、英米やフィリピン、ベトナムとの防衛協力の取り組み、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想などについても解説している。子供たちに配布されず職員室で塩漬けになっている冊子を、東京新聞社内で配ってはどうか。

人手不足解消を狙うのは悪いことか

 防衛省が「子ども版 防衛白書」を作成し小学校への配布を考えたのは、自衛隊の活動や安全保障の実情に関心を持ってもらいたいとの動機と同時に、リクルートに生かしたい面があるのは確かだろう。

 冊子で自衛官の食事の様子や音楽祭りのような人気イベント、ブルーインパルスを取り上げているのは、確かに子供たちの関心を引くためであろうし、できれば将来の就職先として自衛隊を選択肢の一つに入れてもらいたい、という思いもあるだろう。

 そうした思いの背景には、自衛隊が直面している隊員募集の厳しい現実がある。

 2025年6月10日に開かれた「自衛官の処遇改善に向けた関係閣僚会議」では、定員は約24万7000人のところ、充足率は89.1%と発表されている。「なんだ、それでも定員の9割近くもいるなら大丈夫じゃないか」と思う向きもあるかもしれないが、定員は現在の安全保障環境を基に、どこにどれくらい人員が必要かを積み上げた上で算出し、それに基づいて訓練計画や人事を練っている。実際の人員が計画よりも10%も足りないとなれば計画通りの防衛体制を敷くことができない。

「人手が10%足りないので、災害派遣や有事の際に助けられる国民の範囲も10%減でご了承ください」とはいかないため、現場には無理が生じてくる。そうした無理が、東京新聞も問題視する組織内パワハラに影響している可能性も考慮しなければならない。

 人手不足と安全保障環境の悪化から、陸上自衛隊は富士火力演習の一般公開を取りやめている。近年、入場券はプラチナチケット化し、一般向けにショー的な見せ方も増えていたが、広報的には大きな意味があった。にもかかわらず、一般公開を取りやめ、より実践的な演習に切り替えなければならないほど、人員確保と安全保障環境という二つの要因で状況が深刻化しているのが自衛隊の現在だ。

 日本全体が若手不足、人手不足に陥っている中、高齢者や外国人労働者に頼ることができない自衛隊が人員確保に焦るのは当然だろう。その「焦り」を感じ取ったならばなおのこと、冊子配布に理解を示してもよさそうなものだ。

〈自衛官確保に苦戦…にじむ焦り〉〈若い世代にアプローチして人材を集めたいという意識が透けて見える〉

 同じ記事の中で、なぜか上から目線でそう書いて見せる東京新聞。だが、自衛官の確保が難しくなって困るのは日本国民であり、その中には東京新聞社員も含まれるのである。

梶原麻衣子
1980年埼玉県生まれ。中央大学卒業。月刊「WiLL」、月刊「Hanada」編集部を経て現在はフリーの編集者・ライター。著書に『「“右翼”雑誌」の舞台裏』(星海社新書)。

デイリー新潮編集部

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