「押し相撲」が主流になり、手に汗握る熱戦は減った…元NHKアナが指摘する「力士の巨大化」問題

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本質が変わった

 しかし、近年の相撲は、昔と比べて面白くなくなったと感じています。その大きな理由は、力士が大きくなりすぎたことです。昭和の時代のような互いに組み合って大熱戦で、投げを打ってもどちらも崩れないし、寄って出ても残されてしまう、そんな手に汗握る熱戦はなくなりましたね。

 大相撲の本質が変わってきたんです。

 昭和から平成に変わる頃、曙や小錦といった非常に大きな力士たちが台頭し、それに対抗するために、皆、体を大きくすることが一番だと考えるようになりました。

 貴乃花でさえ、幕内に入った頃は100キロ台だったのが、横綱に上がる頃には160キロ近くにまでなったと言います。15日間という長丁場で戦う場合、体の大きさによって圧倒されてしまう相撲が2、3割は出てくる。つまり、体が小さいと潰されてしまう、ということが起こるのです。

 そう考えると、貴乃花が横綱になるためには、曙や武蔵丸、小錦のような体がでかい力士に勝たなければいけない。仮に3人に負けてしまうと、12勝3敗で横綱にはなれない。そうした負けを減らすためには、体で対抗するしかない。大きな体がなければ太刀打ちできないと考えたと思いますね。

 力士の体が大きくなればなるほど、相撲の中身は変わってきます。土俵の直径は決まっていますから、その中で大きな者同士が戦い始めると、どうしても「押し相撲」が主流になってしまい、回しを取り合うような取り組みがどんどん減っていきました。

 押し相撲が面白くないわけではありませんが、あっけなく決まってしまうのが面白くないのです。もう少し熱戦してほしいですよね。仕切りで駆け引きをしている時間の方が長く、立ち合ったら2秒、3秒で終わってしまう。

 体が大きくなりすぎて、技よりも力や圧力、馬力で圧倒する相撲が顕著に増えてしまった。技で仕掛けようとする取り組みが減り、きっと相撲が面白くなくなったと感じています。

 子どもの頃から60年間、相撲を見ていますが、昔のようなワクワクするような大熱戦は本当に少なくなりました。今は大きな体が良いとされますが、「小よく大を制す」という相撲界の言葉が、ほぼなくなってしまいました。大きな力士が小さな力士をひねり潰してしまう状況なのです。

制限の見直しを

 自著『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』でも書きましたが、そろそろ体重や身長の制限を見直すべきだと私は思います。むしろ逆ではないかと。大きすぎるのはやめましょう、ということです。

 大きくなれば、動けず、病気や怪我をしやすい体になります。そうすると、力士という職業を続けるのは正直難しい。サポーターやテーピングをしている人間がこれほど多い競技は他にないのではないでしょうか。

 体を鍛えられる状態に戻さないとダメだと思います。昔と比べて稽古量も違います。200キロの人と130キロの人を比べると、130キロのほうが長い時間、稽古ができますよね。大きすぎるとすぐに疲弊し、それ以上稽古ができなくなり、体の芯の強さが身につかないという悪循環に陥ってしまいます

 体が大きいと、怪我にもつながりやすいと思います。200キロの人が100キロの人を押し潰して怪我をさせるだけでなく、200キロの人が自分自身の重さで怪我をすることだってあるのですから。

 あっけない相撲が多い中で、チケットはすぐに完売するなど、相撲の人気は依然として高いです。だからこそ、もっと面白く相撲を見てもらうために、動ける人間が戦って技を仕掛け、それでも簡単には負けないような相撲を見せてほしい。そのためには、体を絞り、もっと鍛えなければならないと思っています。

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 第5回【「運動会や遠足の日を待つような気持ち」 元NHK名物実況アナが明かす“相撲愛”】では、藤井アナが自身のこと、“相撲愛”について語っている。

藤井康生
1957年、岡山県倉敷市出身。79年にNHKに入局し、大相撲や競馬、オリンピックなどの中継を担当する。2022年から「ABEMA大相撲LIVE」で実況を担当。近著に『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(東京ニュース通信社)。YouTubeチャンネル「藤井康生のうっちゃり大相撲」が人気。

デイリー新潮編集部

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