「7月5日に東日本大震災の3倍の津波が」 荒唐無稽な予言をなぜ中国人は信じるのか 「風水が重要視され、超自然的なことを信じる土壌」

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【前後編の後編/前編からの続き】

 7月5日に大津波が日本を襲う――こんな“予言”が香港・韓国・台湾などアジア各地で広まり、人々の足を日本から遠ざけている。不穏なうわさに気をもむ地域を取材してみると、対中関係から土着の文化まで、実にさまざまな事情が“予言”ブームの陰に見てとれるのだ。

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 前編【「7月5日に東日本大震災の3倍の津波が押し寄せる」予言で大混乱 「7月のツアーは全然ダメ」 観光業に大打撃】では、 予言で海外からの予約が激減するなど大打撃を受けている観光業界の「嘆きの声」を紹介した。

 中国事情に詳しいフリーライターの西谷格氏が、香港の人々に予言が膾炙した理由を分析する。

「『私が見た未来 完全版』は台湾の出版社から中国語版が出ており、帯文には〈老高與小茉(ラオガオユィシャオモオ)のYouTubeで話題〉と書かれています。この〈老高與小茉〉とは中国出身のYouTuberで、現在はシンガポールに移住し動画を投稿しています。陰謀論や都市伝説を老高と小茉の夫妻が語り合うというチャンネルで、660万人もの登録者がいる。この二人が火付け役とみてよさそうです」

「老高與小茉」は22年にいち早く同著を取り上げ、その動画の再生回数は約870万回にも上る。また予言で再生数を稼ぐ中国系YouTuberは、他にも多数認められたという。

「中国ではデマを広めると治安管理処罰法などにより、厳しく裁かれます。SNSの利用も制限されており、この手の動画は広まりづらい。一方、特別行政区の香港では一定の言論の自由があるため、こうした動画も再生数を伸ばしてしまいます」(同)

「超自然的なことを信じる土壌」

 旅行控えについては、

「動画のコメント欄には〈ないと信じるより、あると信じておくに越したことはない〉といった書き込みが見られ、念のため訪日は避けようという心理の人が多いようです。また、地震がほとんどない香港では防災教育もなきに等しく、海外で被災したらどうしていいか分からないというコメントもありました。多くの動画がオーバーに誇張された津波や地震のイメージ画像を使っており、未知であるが故に過度に怖がってしまっている側面が見受けられます」(西谷氏)

 また、中国に詳しいジャーナリストで千葉大学客員教授の高口康太氏は「風水」の影響を指摘する。

「香港や台湾では風水が広く信じられています。例えばビルを建設する際、その場所が風水的に悪いと分かれば中止するといったこともあります。日常的にお祈りをする人も多く、もともと超自然的なことを信じる土壌があるのです」

 実際、香港の著名な風水師が予言にお墨付きを与える動画や、タイの予言者にインタビューをして「タツキと同じ予言をしている」と報じたりする香港メディアも見られる。

「香港のメディア界では夕刊紙のようなゴシップ紙が強く、彼らにとって格好の題材です。かなり多くの人が予言を目にしているでしょう。昨年度の訪日香港人は268万人超であり、約3人に1人が日本旅行をしている計算です。さらに6月中旬~9月初めは香港で夏休みの時期にあたり、特に訪日客が増える時期。日本の観光業にとって影響は少なくないでしょう」(同)

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