「当然本音は違う」 円満退職をアピールした白鵬の胸の内 「前伊勢ケ濱親方から宮城野株を戻してもらえるか不安に」
とうとう相撲協会を退職した、歴代最多45回の優勝を誇る元横綱白鵬(40)=前宮城野親方=。6月9日に記者会見を開き、退職に至った経緯や今後の目標を語ったが、水面下では前伊勢ヶ濱親方(64)=元横綱旭富士=と年寄株を巡る攻防戦を繰り広げていた。
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【写真を見る】会見後に「白鵬」が見せた“吹っ切れたような表情” 「炎鵬に後を託す」という決意を感じさせる
“円満退職をアピール”も本音は
会見は帝国ホテル東京の中2階「光の間」で、正午過ぎから開かれた。
「長年、協会との確執が取り沙汰されてきた白鵬ですが、最後は“円満退職”をアピールしました。協会批判は手控え、入門してからの25年間に謝意を述べたのです。この日に白鵬の宮城野株を継承して宮城野親方となった前伊勢ヶ濱親方と並んで登壇したことも、和やかな雰囲気を醸し出していましたね。当然、本音は違うでしょうけれど」(大相撲担当記者)
振り返ると、白鵬と弟子がそろって、前伊勢ヶ濱親方が率いる伊勢ヶ濱部屋への転籍を余儀なくされたのは、昨年4月。その2カ月前に発覚した弟子の暴力問題の監督責任を問われ、自身の宮城野部屋を閉鎖させられた末の出来事だった。
「同じ一門の伊勢ヶ濱部屋で部屋付き親方となった白鵬は、協会から宮城野部屋の再興が許される日を心待ちにしてきましたが、なかなかかなわず、ついに今年3月ごろ、心が折れてしまったといいます」(同)
弟子9人引退の内幕もポロリ
事実、白鵬は今回の会見の質疑応答で退職理由を聞かれ、こう答えた。
「(宮城野部屋が伊勢ヶ濱部屋の)預かりになって丸1年がたった時に、いつ(再興できるのか)というのが見えなくて、また延ばされた。それが大きいのかなと思っております」
さらに続けて、
「弟子たちは去年、元関脇旭天鵬の大島親方(50)が率いる大島部屋に転籍したいと思っていましたが“(白鵬と)同じモンゴル出身(の親方)だからダメだ”と言われてしまった。“他の部屋には行きたくない”という弟子たちがいまして、それが、9人が引退した原因であります」
と、弟子の半数近くが辞めていった内幕も明かした。ポロリと本音をのぞかせたくだりである。
愛弟子・炎鵬に宮城野株を
「会見前、白鵬は残された弟子のことを非常に気にかけていました」
こう語るのは、タニマチ関係者だ。
「白鵬は愛弟子である炎鵬(30)に宮城野株を譲ろうと考えていたのです。彼に宮城野部屋の再興を託し、伊勢ヶ濱部屋に預けられている弟子の受け入れ先になってもらう青写真を描いている。そのためには協会の承認が必要。だから、今は協会とけんかするわけにはいかないのです」(同)
もっとも、現在の炎鵬は幕下に落ちており、親方に就ける規定をクリアするためには、あと1場所、十両以上の番付で過ごさなければならない。
「このため、炎鵬が親方になるまでのしばしの間、白鵬は前伊勢ヶ濱親方に宮城野株を預けることにしました。来月、65歳の定年を迎える彼は再雇用制度の下で、年寄株があればもう5年間、部屋付き親方として務め、給料をもらうことができるからです」(同)
宮城野株を戻してもらえるか不安に
しかし、白鵬としては、いずれ本当に宮城野株を戻してもらえるのか、不安がよぎったという。
「6月2日、協会の発表で理事の元関脇栃乃和歌こと春日野親方(63)が、前伊勢ヶ濱親方から“白鵬は弟子の指導に身が入っていないようだ”と報告を受けていたことが明かされたからです。この事実ではない“告げ口”を聞いた春日野親方は宮城野部屋再開の承認を思いとどまったそうで、白鵬は前伊勢ヶ濱親方に不信感を抱きました。結局、弁護士を入れて前伊勢ヶ濱親方と話し合い、6月9日の会見に出てもらうよう約束を取り付けたといいます」(前出のタニマチ関係者)
果たして、前伊勢ヶ濱親方は今回の会見で「宮城野部屋の力士の中から、その名跡を継げる子が出てきたら譲渡する」と述べた。
「世界中に相撲の魅力を」
会見後の白鵬に単独インタビューを行い、宮城野株が戻ってくる保証があるかどうかを聞くと、
「ハハッ。それはもう伊勢ヶ濱さん本人が言っているとおりですから」
と、余裕の表情で答え、そのまま炎鵬について、こう語った。
「まだ学生だった頃、先生と一緒に朝稽古に来てくれた。すると、土俵に張り付いたかのように動かない私の足を見て、横綱にほれたんだと。そこから内弟子になり、今まで一緒にやってきました。私が退職してからも皆で、ずっと応援していきますよ」
白鵬は会見で「世界相撲グランドスラム」なるプロジェクトを立ち上げ、アマチュア相撲をベースに、世界を舞台に活動していく旨を明かした。トヨタ自動車の豊田章男会長からの支援を受ける可能性も示唆。
「炎鵬はアマチュアだった時、世界相撲選手権大会の軽量級で2回、チャンピオンになった。そんな彼が大相撲でも親方になることを期待しています。自分が現役時代に戦った横綱や大関たちも、もっと上の立場になれば、こっちと組んでくれるんじゃないかな。今、大相撲は外国人のお客さんが3分の1だといわれていますが、最後の取組を見ずに帰られてしまうことも多く、魅力を伝え切れていない。私は従来と違うやり方で世界中に相撲の魅力を伝えていくつもりです」(同)
年寄株など要らない時代が訪れるか。