「ニュース原稿をただ読み上げるのが役割ではない」 「“報道のTBS”の顔」田畑光永さんが貫いた「キャスター」の在り方

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キャスターはニュースを包む“包装紙”

 帰国後、「報道特集」のキャスターに。コツコツ当事者に迫る調査報道の名手として地味ながら印象を残す。

「朝のホットライン」ではコメンテーター。同番組で総合司会を務めたTBSの五味陸仁(みちひと)さんは思い返す。

「細かいことを気にしない人でした。何が要点なのか、しっかり押さえてはっきりものを言いますが、感情的にならなかった」

 こうして「ニュースコープ」のキャスターに就く。

「キャスターはニュースという中身を包む“包装紙”だと田畑さんはよく言っていました。包装紙が中身より目立つことはありえない。派手な包装紙で気を引くなど本末転倒と戒めていました」(吉川さん)

批判することがジャーナリズムではない

 自分は記者に過ぎないと注目されることを嫌がった。

「突然の大きなニュースに報道局が大騒ぎになっても、キャスターが慌ててどうなる、とドーンと構えていました」(吉川さん)

 88年から1年間、「ニュースステーション」(テレビ朝日系)と放送時間が重なる「ニュースデスク」のコメンテーターに。斜に構えて物事を批判することがジャーナリズムではない、と考えていた。

 89年の天安門事件へとつながる民主化要求運動を北京で取材しながら、武力弾圧を読めなかったと判断の甘さを大いに恥じていた。

 定年後は神奈川大学で教鞭を執る。2007年、インターネット上で意見を表明しあう「リベラル21」を開設し、言論活動を続けた。

 15年にはTBSの特別番組に吉川さんと出演、過去の重大事件を振り返った。

「内容を伝えることが最優先で、信頼された語り口は変わりません」(吉川さん)

 今年3月まで執筆活動を続けていた。5月7日、89歳で逝去。

 仕事に対して信条なしが信条、と話した。肩肘を張らずとも、限りなく公正で、事実を単純化せずに伝えてきた気骨ある記者だった。

週刊新潮 2025年6月5日号掲載

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