USスチールに「4兆円」 日鉄の買収案に識者は「らしくない焦りのようなものを感じる」

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現地の労働者に「140億ドル」をアピール

 果たして「買収」なのか、単なる投資を意味しているのだろうか。日本製鉄(以下日鉄)によるUSスチールの買収計画に対して、トランプ大統領が、SNSにメッセージを書き込んだのは5月23日のこと。

〈これは、USスチールと日鉄の計画的な提携であり、少なくとも7万人の雇用を創出、米国経済に140億ドルの経済効果をもたらす〉

 この一文に、メディアは大騒ぎとなる。日経新聞が〈USスチール買収一転承認〉と1面トップで報じ、日鉄も「トランプ大統領の英断に心より敬意を表す」とコメントしたほどだ。

 ところが25日、大統領が記者団に対して「アメリカによって支配されることになるだろう」「(日鉄は)部分的な所有権を持つことになる」と、手のひら返しの発言。一体何が……。

 共同通信の元ワシントン支局長で国際ジャーナリストの春名幹男氏が言う。

「トランプ氏は、日鉄による完全子会社化なのかどうかという争点をよく理解しないままSNSに書いたのでしょう。彼にとって大事なのは“140億ドルの経済効果”という部分です。USスチール本社のあるペンシルベニア州は、長年、民主党が優勢で2024年の大統領選でやっと共和党が勝ち、来年の中間選挙も乗り切りたい。そこで、現地の労働者に向けて投資額をアピールしたのです」

日鉄らしくない“焦り”

 買収案は、対米外国投資委員会(CFIUS)による再審査を受け、結果はすでにトランプ氏に報告されている。日鉄が政府承認を条件に140億ドルの追加投資を提案している旨も伝えられているという。事実ならトータルで約4兆円を時価総額1兆6800億円のUSスチールに投じることになる。

「日鉄が買収を明らかにした一昨年12月はゼロ金利の時代です。ところが、今や超長期国債の金利は3%を超えている。いくら同社が優良企業とはいえ、巨額の利払いを続けるのは容易ではありません」(インフィニティのチーフエコノミスト・田代秀敏氏)

 経済ジャーナリストの町田徹氏が言うのだ。

「日鉄名誉会長の三村明夫氏に何度も取材したことがありますが、魅力的な買収案件であっても慎重に検討するのが同社です。製鉄は装置産業ですから景気後退期を乗り切れるのか。そして、その国のナショナリズムに触れるかどうかも。しかし今回、米大統領選があることを知りながら買収を急いだ。日鉄らしくない焦りのようなものを感じます」

 トランプ大統領が正式に可否を下すのは6月5日。

週刊新潮 2025年6月5日号掲載

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