妻ある男に溺れた美人弁護士が払う代償は… 「殺人」「不倫」「性交」「DV」てんこ盛りの80年代臭漂うドラマが令和に登場
1980年代のサスペンスドラマでは、男はとにかく女を真正面から口説き、女は色艶セクシーが最優先。画面上で雄と雌が競演していたように思う。思春期に見ていたから脳内に色濃く焼き付いている。あの頃の激情型ドラマ臭が漂い、新しいというよりはどことなく懐かしさを覚える作品が令和に登場。純国産を諦めたテレ朝と、韓国の大手制作会社SLLがタッグを組み、華々しく毒々しくなまめかしく送り出すのが「魔物」だ。サムネイルであおることが狙いの過剰演出も含めて、ドラマ好きの原点に引き戻されたような感覚に。
【実際の写真】引き寄せられるように激しいキスを… 性欲に溺れる美人弁護士と妖しい男
主役のやり手弁護士・華陣あやめを演じるのは麻生久美子。業の深いセレブ一家の弁護を引き受けてから人生が一変、理性が吹っ飛んだ挙句に得体の知れない悪意に飲み込まれていく。
そのセレブっつうのが名田(なだ)家。なんだかワケありだ。
名田家筆頭の奥太郎(佐野史郎)は、若い頃に文壇デビューしたものの、その後は鳴かず飛ばず。大学教授に収まってはいるが、地位も名誉も成功も手にした妻・最上陽子(神野三鈴)に敗北感を抱いている。陽子は陽子で、自分を女として見なくなった奥太郎にいら立ちを覚えている。誰もがうらやむ勝ち組夫妻に見えるが、息子・潤(落合モトキ)は仮面夫婦と嘲笑する。
奥太郎が初回で何者かに殺害される。容疑者として連行されたのが、見目麗しい塩野瑛久が演じる源凍也(いてや)。潤の元同級生で、なぜか名田家の離れに住んでいる。しかも妻もいる。北香那が演じる夏音(かのん)は名田家に入り込んで、いろいろな意味でなじんでいる。名田家に寄生する源夫妻の存在が不穏だ。
で、怜悧でまっとうなはずのあやめが弁護した凍也とうっかり懇ろになり、翻弄されていく。どうやら凍也はDV男、夏音は共依存。
この名田家&源家とあやめが関わった背景を描きつつ、冒頭から差し込まれるのは、殺人事件の被告人として法廷に立つあやめの姿。え? やらかした? てな感じに、殺人・不倫・性交・DVと山盛りで昭和感強め。
まともな人がまともじゃない人々に狂わされていく悲劇だが、どこか自業自得というか因果応報感もある。
麻生の欲に抗えない弱さ、塩野の秘めた暴力性、香那の病的な依存度の高さに神野の報われない欲情……痴情のもつれでは片付けられない、根の深い怨嗟と激情。「魔物はだーれだ?」というか、全員魔物に見えるの。
ええと、まともな人もいる。先輩弁護士で、あやめの弁護を担当するのが今野昴(すばる)。演じる大倉孝二がとにかくあやめを口説きまくる。三枚目ではなく、ギリギリ二の線を残す大倉は新鮮だ。
事件を追う刑事役に、嫌味キャラのうらじぬの&とっつぁん坊やヘアの若林時英。この二人には韓国ドラマっぽさを託した感じね。
タイトルも好韓。葬儀の席でなぜかキムチチゲ、あやめがぶっかけられる「愛欲のキムチチゲ」、あやめの親(娘の尊厳を踏みにじる)との会食は焼肉屋で「偽りのサムギョプサル」。ここは鼻で笑って愛でておこう。性欲の代償を描く意欲作は、最後まで追うつもりだ。