オーバーツーリズム批判は外国人差別か? 富士山で連続遭難した中国人大学生に批判が殺到…専門家は「地元住民のケアと外国人排斥は無関係」

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 4月22日午後2時頃、中国籍の男子大学生は富士山の山頂付近から「アイゼンを紛失して下山できない。吐き気もある」と通報し、その後に山梨県の防災ヘリで救助された。さらに26日午後1時50分頃に登山者が「富士宮口8合目付近で人が倒れている。擦り傷があって震えている」と通報。静岡県警の山岳遭難救助隊などが5合目から救助に向かうと、何と22日に救助された大学生と同一人物だった。(全3回の第1回)

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 中国人大学生は携帯電話を山頂に忘れ、それを取りに行くため再び富士山に登ったという。発見されたのは8合目付近で、当時の気温はマイナス10度。高山病の症状が認められ、担架で5合目まで運ばれた。

 富士山は毎年7月上旬に山開きを迎え、9月上旬には閉山する。2回の遭難事故が起きた4月は気候条件が非常に厳しく、当然ながら登山道は閉鎖されていた。

 中国人大学生による2回連続の遭難騒動を受け、静岡県富士宮市の須藤秀忠市長は5月9日、定例会見で厳しく批判した。

 大学生に限らず一部の登山者は閉山期でも「言うことを聞かず勝手に登っている」と指摘。「遭難すると、人命を大事にするという見地から救助にいかなければならない。その費用は莫大なもので、個人負担にするべきだし、自己責任」との持論を述べた。

 山梨県富士吉田市の堀内茂市長も5月13日の定例会見で、須藤市長の見解に賛意を示した。「救助は命がけ。趣味や道楽で登る人らをなぜ公費で救う必要があるのか」と、基本的な知識さえ欠く観光客が安易に登山することを強く批判。静岡県側と協力し、救助費用の自己負担化を求めていく考えを明らかにした。

外国人観光客に批判が殺到

 しかし2回連続の遭難騒動が報じられ、二人の市長が持論を述べると、人種差別的な言説には慎重な大手メディアでさえ外国人観光客を批判する報道を行った。担当記者が言う。

「全国紙や民放キー局でさえ外国人観光客を批判したのは、富士山は外国人観光客によるオーバーツーリズムの被害が最も顕著な観光地の一つだからでしょう。5合目は大半が外国人という日も珍しくありません。訪れた日本人が『外国に来たみたい』とSNSに投稿することも日常になりました。さらに外国人観光客は富士山に登るためのルールを守らない傾向は以前から指摘されています。軽装で弾丸登山に及んだり、真冬の富士登山をSNSで推奨したり……という具合です。富士山におけるオーバーツーリズムをどう解決すべきか関心が高まっていたちょうどその時期に、中国人大学生が2回の遭難騒動を引き起こし、一気に報道と世論が沸騰したと言えます」

 大手メディアでさえそうなのだから、SNSとなれば外国人排斥の論調は非常に目立つ。

 ただし、ここで注意したいポイントがある。批判の対象となった中国人大学生は日本に居住しているため、いわゆる外国人観光客には該当しないはずなのだ。

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