「米農家の呪縛というか、使命感で」「休みは年に1週間」 元男子バレー日本代表監督・中垣内祐一さんが50代半ばでコメ農家デビューした理由

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休みは年に1週間

 中垣内さんにはもう一つの顔がある。それは福井工業大学教授の肩書。帰郷のタイミングでオファーを受けたのだ。スポーツ指導の基礎、バレーボールの実技、安全管理論などを教え、ゼミも持ち論文指導をする。

「平日の朝は、会社に顔を出して、米の販売、栽培などについて打ち合わせしてから8時に大学に行きます。農繁期には早朝から田んぼで働き、大学の仕事を終えて、また農作業に戻ることも珍しくありません」

 それ以外にバレーボール関係の仕事もあり、全国を飛び回る。終日休めるのは年に1週間前後だという。

 そんな超多忙の中でも米作りへの情熱を支えるのは、「おいしかった」という顧客からの声である。

「東京五輪のときコーチを務めてくれた元フランス代表の(フィリップ・)ブランも食べてました。いま韓国のクラブチームの監督をしていますが、”ここにはお前が作るようなおいしいお米がない“とボヤいていましたよ(笑)。こういう感想もうれしいです」
 
 第2回【陸上日本代表からシャインマスカット農家に転身! 木村和史さんが語った1年目の“やらかし” 「100万円近い損害が」】では、陸上4×400メートルリレーで日本代表として17年の世界陸上選手権に出場した木村和史さんにインタビュー。苦難続きだったこれまでの歩みと、それでも「農業が楽しくて仕方ない」という理由についてお話を聞いた。

西所正道(にしどころまさみち)
ノンフィクション・ライター。1961年奈良県生まれ。京都外国語大学卒業。著書に『東京五輪の残像』『「上海東亜同文書院」風雲録』『絵描き 中島潔 地獄絵1000日』など。

週刊新潮 2025年5月22日号掲載

特別読物「バレーボール、陸上、サッカー…なぜ『元日本代表』たちは農業に転じたか」より

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