ラグビーW杯の真実 南ア撃破は「奇跡ではない」 自国開催ベスト8は「120%」確信

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寝ないで会見場を用意

 劇的勝利をベンチで見守った大村氏。その後、想定外の事態に気づく。「やばい、明日の記者会見の場所がない、どうしようと思いましたね」。歴史的な勝利に日本のマスコミだけでなく、世界のメディアが殺到すると予想された。「ホテルの会見場は小さい部屋しか用意がなくて、寝ないで広報担当と、机や荷物を片付けました」。

 結果的に、次のスコットランド戦で10-45と敗れた日本代表。3勝1敗ながらボーナスポイントの差で、決勝トーナメント進出を逃すという悔しい結果となった。

 エディーHCのもとで鍛え上げられた日本代表は、4年後の2019年に自国開催のW杯を迎える。引き続き、大村氏はチームマネージャーを務めた。

「ベスト8? 100%確信していました。いや、120%です」

「ONE TEAM」を掲げたジェイミー・ジョセフHCのもと、日本代表は一糸乱れぬ結束力を追及した。

「ジェイミーが上手だったのは、ミーティングで『実行する』という言葉を使ったんです。会話の中で『達成する』『実行する』というキーワードが出てきた。HCが交代して、混乱期はありましたが、4年間、確信をもってやることができました」

 マネジメントサイドとして、チームの新しい方針をどこまで浸透させることができるか。大村氏は「ない脳みそで死ぬほど考えた」という。大切なのはジョセフHCの哲学とチームの目指す場所を、選手一人ひとりの心に落とし込む作業だった。

 試合までの残り日数をカウントダウン表示するなど、"見える化"の工夫で自然と気持ちを切り替えさせる環境も整えた。「自分たちの弱さ」を克服したいと、合宿所やホテルには映画「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーに似た「黒の甲冑」を置いた。

「外国のチームは巧妙にズルをし、ダーティーなところがあるんです。でも、日本人は『おい』というだけ。きれいなことをやりすぎているんです。いや、そうじゃない。『おい』と言っても、ボールを取られれば、負けに繋がるわけです。もちろん、反則はしたらダメ。でも、グレーなところを自分の中で、どこまで持ってやってやれるのか。それをイメージしたのが『ダークサムライ』でした」

 大村氏には忘れられない光景がある。

 2011年のW杯、1次リーグで敗退した時のこと。ちょうど、同じ時期に世界一になった女子サッカー「なでしこジャパン」と帰国が重なった。なでしこを出迎えるために空港には約3万人ものファンが集まったが、ラグビー代表を出迎えたのは200~300人ほどだった。

 どんなに泥臭くても、勝たなければ意味がない。

「負けたら、どうしますか。僕らが使わしてもらっていたお金は税金、スポンサーから頂いているお金、チケットのお金。全部、人のお金を使わせてもらっていて、負けて笑えますか。僕らの家族も負けたら、食べられなくなる。選手やスタッフも奥さん、子ども、おじいちゃんおばあちゃんを養っている。負けるなんて考えられなかったです」

 壮絶な覚悟をもって挑んだ自国開催のW杯だった。

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 第1回【ラグビー日本代表を13年間、裏で支え続けた男の哲学「評価されるのはプロセスではなく結果だけ」】では、大村氏が仕事への哲学を語っている。

大村武則
1965年、京都府宇治市生まれ。城南高校でラグビーを始め、大阪体育大学ではWTBとして活躍。NZ留学後に現役を退き、1995年にヤマハ発動機のトレーナーへ転身。2009年からラグビー日本代表のチームマネージャーを務め、2011、15、19年のW杯に帯同。近著に『ONE TEAMの真実』。現在は講演活動なども行っている。

デイリー新潮編集部

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