29年間で中3の正解率が2割も減った「数学者が異常を感じた設問」 背景にある教育の歪みの正体とは

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「6分の1公式」をめぐる混乱

「6分の1公式」というものがある。これは、受験生の間ではよく知られた“公式”で、直線と放物線が2つの点で交わるとき、その交点の座標を求めると、積分の計算を一切することなくそれらで囲まれた部分の面積を求めることができるもので、受験生にとっては便利である。要するに、高校数学Iしか履修していない生徒でも、直線と放物線で囲まれた部分の面積は求められるのである。某大学のマークシート式の入学試験で、ある年、「6分の1公式」を使えば直ぐに答えを書ける積分の問題が出題され、その正解率はかなり高かった。ところが、翌年の入学試験で、「6分の1公式」を証明させる記述式の問題が出題されたが、その正解率は惨憺たるものだったのである。

「暗記」「効率」ばかりの受験者を落とすための出題だといえるが、大学側の“対策”はほかにもある。たとえば、某有名国立大学の記述式入試では、「6分の1公式を使うならば証明してから使うこと」という但し書きが事前に周知されていたこともある。また、「数学IIの試験範囲であっても昔のように一般の多項式関数の微分積分は試験範囲とする」という但し書きを事前に周知した別の有名国立大学もあった。そもそも「6分の1公式」は、3次以上の多項式関数と直線で囲まれた部分の面積には適用できないことも背景にあったと想像するが、微分積分の本質的理解を重視する意図があったといえる。

 現在は「新しいものを創造することが大切な時代である」とよく言われる。それならば、暗記中心の教育と学びから、いろいろ試行錯誤して考えることが中心の教育と学びに舵を切ることが必要である。

29年間で2割近くも正解率が下がった問題

 今から15年ほど前に大学で就職委員長を補職としてお引き受けしたときは、大学生の就職難時代で、就職適性検査の成績を向上させる使命感があった。そこで様々な調査を通して実態を調べたところ、高校数学の微分積分の計算は得意であるものの、「割合%」の問題が苦手だという傾向があった。「2億円は50億円の何%か」(正解は「4%」、誤答では「25%」が多い)、「2000年に対し2001年は20%成長し、2001年に対し2002年は10%成長したものは、2000年に対し2002年は何%成長したことになるか」(正解「32%」、誤答では「30%」が多い)というような問題である。

 2012年度の全国学力テストから加わった理科の中学分野(中学3年対象)で、10%の食塩水を1000グラムつくるのに必要な食塩と水の質量をそれぞれ求めさせる問題が出題されたが、「食塩100グラム」「水900グラム」と正しく答えられたのは52.0%に過ぎなかった。1983年に同じ中学3年を対象にした全国規模の学力テストで、食塩水を1000グラムではなく100グラムにしたほぼ同一の問題が出題された。この時の正解率は69.8%だったのである。「割合%」の問題の正解率が深刻になってきた背景を考えると、「比べられる量」「もとにする量」「割合」それぞれの意味を理解させる前から、それらの関係式を暗記させる教育が蔓延ってきたことがある。

 たとえば、「は(速さ)・じ(時間)・き(距離)」式と同じように、円の中にそれぞれの先頭の文字「く(くらべる量)」「も(もとにする量)」「わ(割合)」を書く奇妙な“公式”すらある。「割合%」の問題は、「~の…に対する割合は@%」「…に対する~の割合は@%」「…の@%は~」「~は…の@%」の表現がどれも同じ意味であることもあって、暗記だけの生徒の頭の中は混乱するようである。

 なんにせよ1983年から2012年までの29年間に、2割近くも正解率が下がることは異常であり、その原因は「割合の問題まで理解を軽視して暗記で誤魔化す教育になっている」と筆者は考える。中学3年から大学1年までの約4年間で「割合%」の問題に関して理解が一気に進むとは考え難く、上で述べたような大学生の“珍現象”が現れるのだろう。

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