白米に“塩鮭の切れ端”だけが乗ったさみしすぎるシャケ弁…実は“ひとかけらでコメが無限に食べられる”秋田のソウルフード「ぼだっこ」だった
ぼだっこの塩辛さが恋しくなる
秋田県内のコンビニやスーパーでは、ぼだっこのおにぎりも販売されているように、県民にとってなじみ深い食材なのだ。自身も料理をするという生粋の秋田県民の菅氏は、ぼだっこの魅力をこう話す。
「ぼだっこは秋田県民の食卓には欠かせないもので、僕も子供のころから味わっている、まさにソウルフードですね。塩分が多くて、昨今の健康ブームに逆行しているのはわかりますが、県民はついついこの味を求めちゃうんじゃないでしょうか。普通の甘鮭も好きですが、やはりぼだっこの塩っ辛さが猛烈に恋しくなってくるんですよね。
塩辛さのおかげなのか、学校帰りや仕事終わりに食べると疲れがとれるし、コメと一緒に味わうとほっとするんですよ。ぼだっこは秋田県内のスーパーならどこでも売られていますから、僕は日常的に焼いて食べていますね」
この日、弁当が完売だったことを受け、無性にぼだっこが食べたくなったという菅氏。スーパーでぼだっこを買い求め、夕食に味わうことを決めたという。実際の食事風景の写真を送ってもらったが、熱々のごはんの上に堂々と乗ったぼだっこは、圧倒的な存在感がある。
「茶碗に盛ったごはんに対し、このぼだっこの量では…正直、ぼだっこが余ってしまうくらいなんですよね(笑)。普通ならごはんが余ってしまうと思うのですが、ぼだっこはほんのちょっと口に含むだけでよだれが出るほど。あと、ぼだっこは冷えてもおいしいんですよ。熱燗にした日本酒の肴にもぴったりで、呑兵衛にはたまりません」
秋田県は食文化をもっと発信するべきだ
秋田県民は日本でも有数の塩辛いものが大好きな県民である。こうした塩辛い食べ物が好まれる背景には、秋田県の冬が長く、塩漬けした食べ物など保存食を愛好する文化が影響しているという説がある。また、秋田が日本でも有数の日本酒を好む文化であるということも無縁ではなさそうだ。菅氏が指摘するように、ぼだっこは日本酒とも相性抜群なのである。
秋田県の前知事の佐竹敬久氏は、2023年10月23日に愛媛県の郷土料理であるじゃこ天を「貧乏くさい」と発言。四国に対して「酒はうまくないし食い物は粗末」と食文化をディスりまくって大炎上したのは記憶に新しい。その後、佐竹氏は「不穏当で不見識な発言だった」と謝罪したが、今度は秋田県の郷土料理がネット民から貧乏くさいと見られてしまっている。
秋田県から県外に出た出身者が口をそろえて言うのは、秋田県はとにかく宣伝が下手だということである。旨い食べ物や温泉、観光名所、伝統芸能もたくさんあるのに、集客に結びついているかというと微妙である。ぼだっこはというと、秋田県の代表的な郷土料理なのに、全国的な知名度が今一つである。知名度の低さゆえ、貧乏くさいと見なされてしまった面はあるだろう。
秋田県は全都道府県の中で人口減少率がダントツでトップであり、最近は、熊ばかり出る県というイメージが広まってしまっている。佐竹氏が四国の食文化をディスった直後、一時的に秋田県の食に注目が集まったことがあった。しかし、今ではすっかり忘れ去られ、当時の盛り上がりが継続できているとは言い難い。県は本腰を入れて、熊に替わる名物を生み出すべく、積極的に魅力を発信してほしいものである。