米留学「佐々木麟太郎」をNPB球団が“強行指名”? 今秋ドラフトに向けて水面下で進む「秘策」とは
NPBのドラフトルール変更
アメリカ・スタンフォード大学に留学中の佐々木麟太郎(20=花巻東高)が、大乱打戦となった現地時間5月11日のグランドキャニオン大学との試合で「サヨナラ勝ちのキーマン」となった。
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15対15で迎えた延長10回裏、二死満塁で佐々木にこの日7度目となる打席がまわってきた。カウント1ボールからの2球目が佐々木の右腕にぶつかった。投げた瞬間にすっぽ抜けと分かる投球で、直撃と同時にスタンドから悲鳴も聞こえた。佐々木は「大丈夫だ」と言わんばかりに、自軍ベンチにガッツポーズを見せて一塁に向かった。
三塁走者がホームベースを踏み、ゲームセット。米国の学生野球には試合前と終了時にホームベースを挟んでの「整列、礼」がないので、敗れた側のグランドキャニオン大学ナインはベンチに広げていた野球用品を片付け、淡々と去っていく。佐々木とスタンフォード大学ナインはハイタッチや指笛を吹くなどしていた。
まさに明暗を分けた光景だが、押し出し死球にも意気揚々としたところを見せた佐々木に熱い視線を送っていたのは、メジャーリーグのスカウトマンだけではないようだ。
「4月のノートルダム大学との試合をNPB球団のスカウトチームが視察したとの情報は、米国でも報じられました。以後、NPB球団と契約したこちらのコーディネーターもいて、普段は外国人選手の調査をメインに動く現地スカウトがSASAKIにシフトチェンジしたと聞いています。米スカウトもSASAKIのスイングスピードや打球の速さを高く評価しています。NPB球団の編成幹部が、それも複数球団が現地入りしたとなれば、日米の獲得合戦に発展していくでしょう」(米国人ライター)
日米の争奪戦が予想されるのにはいくつか理由があった。花巻東高校時代に放った通算140本塁打に将来性を感じたのはもちろんだが、NPBがドラフト指名された選手に関する交渉期間のルールを一部変更したからだ。
詳しく言うと、昨秋のドラフト会議がその改定ルールでの1回目となった。改定されたのは「海外の学校法人に在籍する日本人選手」の交渉期間について。これまでは日本国内の学生、社会人選手と同様、「翌年3月末まで」だったが、「その交渉期間は翌年3月末から7月末まで」となった。
「米国のドラフト会議は、オールスターゲーム期間中の3日間に渡って開催されます。4年制大学に在籍する学生を指名できるのは2年生を修了しているか、21歳以上という条件があります。SASAKIは05年4月生まれなので、MLBドラフトの対象となるのは26年7月です」(前出・同)
つまり、今秋のNPBドラフト会議でどこかの球団が佐々木を指名しておけば、26年7月のMLBドラフトで「待った!」を掛けることができる。メジャーリーグのオールスターゲームは7月の中旬に開催される。NPB球団が25年10月のドラフト会議で指名すれば、その交渉期間は「26年3月末から7月末まで」だから、MLBドラフト会議の終了を待っても、約2週間はメジャーリーグの指名球団と張り合って佐々木との入団交渉に臨むことができるのだ。
強行指名もアリか……
「日本球界を見渡してみると、ヤクルトの村上宗隆(25)、中日の細川成也(26)、巨人の岡本和真(28)、ソフトバンクの柳田悠岐(36)などが相次いで負傷してしまい、一発の魅力を秘めたバッターがさらに必要となっています。阪神・佐藤輝明(26)を含め、村上、岡本らは将来のメジャーリーグ挑戦が既定路線のように伝えられています」(スポーツ紙記者)
NPB各球団の佐々木を欲する思いが強まった理由は、負傷者続出も影響しているのだろう。もっとも、佐々木はメジャーリーグ志向が強く、高校卒業後の進路にスタンフォード大学を選んだのも「一日でも早くアメリカで!」の気持ちからだった。NPB球団が“強行指名”し、26年7月のMLBドラフトに先駆けて指名したとしても、交渉のテーブルについてくれないかもしれない。そんな佐々木の気持ちについて、日米双方でこんな見方もされていた。
「SASAKIにも希望球団があると思われます。彼自身は具体的な球団名を話したことはありませんが、ドジャース・大谷翔平の後輩であり、中学時代に在籍したクラブチームの指導者が大谷の父親だった話は米国で紹介されています。大谷、SASAKIの高校時代の監督がSASAKIのお父さんでもある佐々木洋氏(49)でもあります」(現地メディア関係者)
胸に秘めた希望球団からの指名が得られなかった場合、それを見送る可能性もあるという。指名辞退後の選択肢にNPB球団が入ってくるかもしれない。また、MLB指名が確実な有望学生には在学中から代理人がつくことも多い。佐々木の周囲に「それらしい人は見当たらない」(同)とのことだが、日本でも“敏腕”で知られるスコット・ボラス氏(72)が留学をサポートしたとされており、正式に代理人に着くことになれば、MLB指名球団との入団交渉も“混乱”してきそうだ。
「ソフトバンクのスチュワート(25)は高校時代にアトランタブレーブスから1位指名されたんですが、その後の身体検査で幼少期のケガが発覚し、契約金が減額されました。それを不服とし、短期大学への進学変更とソフトバンク行きを仕掛けたのがボラス氏でした。代理人によってドラフト指名選手の契約金が釣り上げられた話はたくさんあります」(前出・現地メディア関係者)
NPB球団にも交渉の余地は出てきそうだが、「強行指名」をすれば、他の有望選手の指名を一人見送ることにもなる。指名しても入団してくれないリスクも背負うわけだ。
「昨秋のドラフト会議でオリックスの6位指名がアナウンスされる前、20分ほど中断しました。NPB職員がオリックスのテーブルまで出向き、話し合っているシーンはテレビでも中継されました。NPB、オリックス双方とも『名簿になかった選手の指名の是非』と言っていましたが、詳しいことは話してくれませんでした。今となっては裏取りもできませんが、名簿になかった選手とは佐々木麟太郎だったと勘繰る声も聞かれました」(NPB関係者)
海外の学校法人に在籍する日本人選手に関するルールが改定について、NPBはまだ調査を続けている。国内の高校生や大学生のように、プロ志望届を提出させるのか。混乱を招くようであればさらに改定するとしており、12球団も海外留学中の選手指名についてよく分かっていないそうだ。
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