尾上菊五郎劇団「音楽部」で報酬の搾取、パワハラ 法人化に向けて動くも「松竹が話し合いをドタキャン」
【前後編の後編/前編からの続き】
襲名という形で名跡を伝承する歌舞伎界では、古くからの「型」を重んじる。その精神は役者のみならず、裏方から興行主にまで浸透し、“独特な因習”を生んできた。それが伝統と呼ばれるうちはまだいいが、とんだ「型破り」となっては、騒動の火種になりかねないのだ。
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【写真を見る】パワハラ疑惑が持ち上がっている音楽部部長の杵屋巳太郎
前編【「契約書は存在せず、金額交渉すらできない」 尾上菊五郎劇団「音楽部」で報酬の搾取、パワハラが 「異を唱えた相手に“仕事を回さない”と」】では、音楽部の部長・八代目杵屋巳太郎(きねやみたろう・59)による部員へのパワハラ、ブラックな労働環境について伝えた。
苦境に耐えかねた部員の一人が松竹への通報に踏み切ったことをきっかけに、今年1月「音楽部」は法人化に向けて動き出したというという。ところが、松竹へ事前に法人化を伝えて仁義を切り、4月に登記を済ませた部員らに、さらなる試練が待ち受けていたというのだ。
「当初、松竹は反対などしていなかったのに、いざ法人化したことを報告すると、“歌舞伎は横のつながりが大切で、他の社中の承認を得るのが先決。次の段階はそれが済んでから”などと、新法人を実質的に了承しない意向を示したそうです」
「今後、歌舞伎界から仕事を回してもらえなくなるのではないか」
歌舞伎界の内情に詳しい関係者が明かす。
「法人化に際して開かれた『音楽部』の部会では、弁護士が同席していたこともあってか、これまでのことについて巳太郎さんが謝罪。結果的に自ら部長の座を降りました。とはいえ、新法人としても、これらの騒動が公になれば菊五郎さんの襲名披露に影響が及ぶ。できれば内々に収めて、巳太郎さんが望めば新法人に残ってもらおう。そんな声まであったにもかかわらず、彼はフリーの立場で歌舞伎に携わるとして、周囲には“若い子たちに追い出された”と吹聴して回った。自らに非はないことを印象付けたいのだと思います」
以来、他の社中は法人化を支持するどころか、共演した「音楽部」の部員をにらみつけるなど、嫌がらせを受けることも増えたそう。
「三味線奏者として一目置かれる巳太郎さんは、松竹幹部や他の社中トップとも親交が深い。彼が抜けた『音楽部』は、今後、歌舞伎界から仕事を回してもらえなくなるのではないか。家族を抱える働き盛りの部員も多くいるので、戦々恐々としていますよ」(同)
松竹が話し合いをドタキャン
しかも襲名披露前の先月末、「音楽部」は松竹と再び話し合う約束を取り付けていたが、ドタキャンされたという。
「実はこの場には、八代目を襲名する菊五郎さんが同席予定でした。菊之助さん時代から部員に寄り添う姿勢を示し、歌舞伎に携わる人たちが、より良い環境で働けるようにすべきだという考えの持ち主なので、多忙な中でも時間を割いてくれた。にもかかわらず、松竹から話し合いを取りやめるとは、よほど法人化は都合が悪いのだ。そう思われても仕方ありません」(前出の関係者)
当の部員に話を聞くと、
「大事な襲名披露公演の最中なので、菊五郎さんたちにご迷惑をおかけしたくない。何もお話しすることはありません……」
また別の部員も、
「法人化は事実ですが、部の皆と話し合わないと取材は受けられません。松竹さんたちにあらぬ誤解や反感を持たれてしまう」
などと、一様に多くを語りたがらない。かくも歌舞伎界の因習は根深いのか……。
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