「1パック158円の卵」から「大阪万博」まで…なぜ“日本人”は行列に並ぶのか? 他人より得をしたい人々が生み出すカオス(中川淳一郎)

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 大阪・関西万博の初日と翌日、Xでは「並ばない万博」と「#万博ヤバい」がトレンド入り。大混雑の悶絶状況を多くの人が投稿したのです。その際、「行列」「初物」が好きか嫌いかが人間関係の判断材料になることを実感しました。

 まず、最寄りの夢洲(ゆめしま)駅に向かう電車が混み、駅を出るまでにも行列が発生。会場内に入るのに2時間待ちで、飲食店だって長蛇の列。「2億円の便所」と話題になったトイレも途中でブッ壊れ、木製リングにはズレが生じている箇所があって来場者の心配の的に。初日の雨は容赦なくリング内のベンチに降り注ぎ、会場内には水たまりを生じさせました。疲れ果てて外に出ようとするも、これまた退出に1時間の行列。

 他方、4月11日に山梨県初のコストコとなる南アルプス倉庫店がオープンしました。朝7時の開店を目指し、午前3時半には1000人の行列。驚愕(きょうがく)したのは、入店第1号を目指して栃木県からやってきた女性が、店の前に1週間前から並んでいたということです。

 私のような行列嫌いな人間は、開催・開店初日に万博やコストコで行列に加わる意味が理解できません。

 思い出作りになる、初日に行ったことは自慢できるものである、というのかもしれませんが、これを苦行と感じない人とは徹底的に話が合いそうにない。

 行きたいにしても、大混雑が収まるであろうGW明けに行けばいいではないですか。な~んてことを言うと「あなたは初日に行くロマンを理解できない唐変木だ」などと反論される。

 過去の行列を思い返すと、ソフトバンクが「SUPER FRIDAY」と題して携帯の契約者らに吉野家の牛丼1杯を無料で提供したところ、大行列が発生。駐車場つきの路面店では大渋滞となり、ソフトバンクは謝罪するに至りました。

 行列の中にいると、人々のむき出しの欲望の渦の中にいるような気がして、邪気にヤラれてしまいます。他人より得するために大勢の人が列をなす。そして、いざ開店となるや一斉に走り出し、カオスが生まれる。

 こうした中に身を置きたくないため、私は行列には自発的には並びません。

 この「行列が好きか嫌いか」というのは、付き合う相手を決める実に分かりやすい重要指標です。結婚するかどうか悩んだ時、行列が好きか嫌いかは重要な判断材料になります。

 だって、1人1パック限定で先着100人が特売の卵を買えるという状況下、スーパーが開店する10時より2時間も前に動員させられ、挙げ句は2パックをゲットしようなんて言われたらどうします? 278円の卵が158円で買えるからってそんな行列に並ぶのは非効率じゃない?なんて言うと家庭ではケンカに発展してしまいます。

 行列エピソードで一番好きなのが、フランスのジュエリー店が0.1カラットのダイヤ(5000円相当)を日本で無料配布した際、5000人が1.5キロもの行列を作り大混乱になった件です。中には有給休暇を取って現れた人も。同社の日本法人代表は「ニューヨークでは混乱しなかった。次のシンガポールではもうやらない」とコメントするほど、日本人の民度と振る舞いにあきれていました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年5月1・8日号掲載

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